No32 ペットボトル1-3
「そして…」
また指を動かし、今度はペットボトルの上部、キャップの部分を指した。
「ここが良い世界、俗な言い方で天国。あ、本当の天国じゃないよ、一つの比喩さ。ここはほぼ幸福ばかりで、いい事だらけ…。不自由も、困った事も特に無い。本当にいい世界だね」
二つ目。
「それで…」
また指を動かし、今度は残り少ない量のジュースが溜まっている底の部分を指差した。
「ここが悪い世界、地獄。嫌な事だらけで、幸福なんかあり得ない。毎日辛く、悲しい事ばかりな世界さ」
そこまで言い終えるとそいつは、オレの反応を待つように一旦喋るのを辞めた。
なるほど、地獄、普通、天国で3つな訳だ。内心、電波な話しを…と思いつつ、その流れに慣れているオレは、間を空けず質問をした。
「…それはオレらが生活してる個々のレベルでの話か?それとも地球レベルでの話か?」
そこら辺を確認しておかないといくらオレでも混乱してしまいそうな気がする。
「どっちでもいいよ」
口元の微笑を崩さない。こういう話をしている時のこいつはいつもそうだ。
用はどっちにも共通する事という訳だ。
「…境界線は?」
「無い…いや、あいまいだと思う」
3つのランクは何処から何処まで、とはっきり分かれている訳ではないらしい。
「…それで?」
今こいつから貰った情報ではそれ以上質問する事は特に無いので、自然に促す形になった。
「うん、今このペットボトルを見て、どう思う?」
…謎解きだろうか。
思うも何も今オレの目の前に置かれているのは、何の変哲も無い振られて雫が内側に散乱した、残量の少ないペットボトルだ。
これを哀れめとでも言うつもりはあるまい、…多分。
「何も思わんが…」
素直に感想を述べた。
「ごめんごめん、ちょっと質問が不適切だった」
何がそんなに可笑しいのか、妙な笑いを浮かべて謝りつつ、再度オレに質問した。
「このペットボトルは今どうなってる?」
さっきとの違いはあまり感じられないが、今度は今現在のペットボトルの状況を生で実況しろという事らしい。アホ臭いが、それ以上に暑いので付き合う事にする。