No32 ペットボトル1-2
「で、どこが似てるって?」
「あ、珍しい、普段は大人しくは聞かないのにね」
少し笑いながら言った。
「…暑いし、だるい」
本当に。
「気を紛らわせたい訳だ」
「おう」
その通りなので素直に肯定した。
「無礼だな、人が真面目に考えてるのに…」
薄いが、あからさまにわざとらしく、批判めいた視線を送って来た。
「…その真面目を何百回も聞かされる身にもなれ」
本当に。
「…似てるシリーズは32回目じゃないか」
「シリーズは他にもまだまだあるだろ…」
そんな間を作る為に、わざと返されると分かっている反論をしなくてもいいだろうに。
「…何があるっけ?」
もういい、分かっていた、つくづくわざとなのだ、そういうヤツなのだ。
「…いい、オレが悪かった。んで?その真面目に考えた結果を聞かせろよ」
オレはそう言って、ソイツが持っているペットボトルを指差した。ホームランを思わせるポーンという快音が遠くから聞こえる。
少年達はゴムボールで野球をしているようだ。
「それのどこら辺がオレ達に似てるんだ?」
音に気を取られて野球少年らの方を向いていたそいつは改めて向き直り、少し満足気に口元を緩めて言った。
「こうするんだ」
中身が泡立たない程度に二、三回ペットボトルを軽く揺らした。
透明なスポーツ飲料が、キラリと光を反射する。
そして、ちょうどオレたちから見て等感覚になるようにペットボトルをテーブルの真ん中に置いた。
「ああ…それで?」
「いいかい?このペットボトルを一つの世界として見たてるんだ、そしてその中は3つのランクに分けられている」
爽やかすぎる天気の中、そいつは突拍子も無い事をいつも通り言い出した。
だか本来は天気なんて関係ない、雪だろうが雷だろうが、こいつはいつも同じようで違う事を同じような口調で言い出すのだ。
そういうヤツなのだ、割り切れている。
「ここまではいい?」
オレの心境を知ってか知らずか、そいつは変わらずダルそうな視線でオレに問いた。
「えー…つまり、今オレ等はペットボトルっつー3つに仕切られた世界を客観的に見てる訳か?」
頭で咀嚼して見解を述べる。
「そうそう、そしてまずは…ここ」
そう言うと、そいつはペットボトルのちょうど真ん中で、指先で線を描くように水平に動かした。
「ここが、普通の世界。不自由はそれなりにあるけど、別段困ってない。時に深刻な問題、時に幸福、その両方がちょうど交互にやって来るような世界」
それが3つの内の一つのようだ。