刃に心《第23話・勝利を手にした敗北者》-11
「霞の言う通り、もうこれは使えぬだろう」
さっきはタイミングと相手の力量が合った為に成功した戦法だが、種もバレた今、霞相手に通用するとは思えない。
「私はこれから正真正銘、この一振りのみでいく」
そう言って霞は刀に手を掛けた。
疾風も改めて霞を見据えた。
「そろそろ終幕ね…」
霞がぽつりと呟いた。
「そうだな。もう幕を降ろそう」
そう言うと、手に持ったデザートイーグルの銃口を霞に向けた。
「やっぱ兄妹よね…」
霞は軍刀を納めた。
だらりと両手を下げると、その手の中に二丁のデザートイーグルが落ちてきた。何処からともなく雲が流れ出て、月を覆い隠す。
場の空気がキリキリと引き締まっていく。
誰も動かない。
風が吹いた。それによって雲が動き、再び月光が照り始めた。
その瞬間、霞が2つの引き金をリズムよく引いた。
タタタタタタタ…。
弾丸が跳ねる。
それを躱し、先に楓が飛び出す。
左の肩口から鳩尾まで一気に刃を滑らせる。
だが、霞はそれを予期していたかのように右斜め前に移動し、楓の懐に潜り込んだ。
銃口を楓の胸元に突き付ける。
「…バイバイ、ねえさん」
躊躇わずに発砲。
崩れ落ちる楓。
「…馬鹿め」
しかし、その口許には笑みが浮かんでいた。
霞は気が付いた。
疾風の姿が見当たらない。
確か楓より一秒程後に飛び出したはず。
背後に気配は無い。
なら───
霞は夜空を仰いだ。
煌々と輝く金色の月の中に影一つ。
その影は短刀を握っていた。
霞はにやりと笑った。
両手のデザートイーグルを手放し、軍刀を引き抜いた。
「うおぉおおお!!」
「ああぁあああ!!」
───キィン。
一瞬だけ刃が交差して、火花が散った。
「くっ…」
カラン、と軍刀が零れ落ちた。
「わ、私は…まだ…兄を超えられないという…の……」
ドサリと霞は倒れ、動かなくなった。
「楓ッ!」
疾風は短刀を投げ捨て、楓の元に駆け寄り、その身体を抱き抱えた。