そばにいて……-3
「なに、これ」
「風邪薬。このまえ出張先でな、鼻水がとまらなくなってさ? その時の残りだ」
「そう……」
「うん、今何か作ってやるから。食ってから飲めよ」
なんだろうか。
ありがとうって言いそびれてしまう程に、思わず呆気にとられてしまう。
だって、普段はバカな事ばっかり言ってる癖に、今のこの彼は随分と大人なのだ。
背広を着ているから?
背広……
そうだ!
「ねえ、仕事は?」
「んー、抜けて来た」
キッチンから彼。
「……大丈夫なの?」
「少しなら」
大丈夫、なんだろうか。
心配だけど、今は彼の全てが有難い。
だから、少しでも長くそばに居て欲しいから、勝手な事を思い付く。
とりあえず、仕事の事を話題にするのは避けよう。
彼が思い出して、早目に戻ってしまわないように。
味は保証しない…… と言った癖に、彼の作った卵粥は、悔しいくらいに美味しかった。
さっきまで何も食べたくなかった筈なのに、普通にペロリと食べられた。
そして、無事に薬も飲めて、心なしか体調が戻って来た様な気がして、何か色々と話がしたくなって……
私は、とりとめのない話を次々に重ねてみる。
でも、重ねれば重ねる程に時は過ぎて、時が過ぎるにつれ彼の視線は、私から左腕の時計へと移っていってしまう。
ああ、時間……
それくらい解る。
仕事を抜けて来てくれたのだ、仕方がない。
よく解ってる、解ってるけど……
止まらない気持ちが、私にどうしようもない我儘を言わせる。
「ねえ、今日はさ? ずっと傍にいてくれる?」
「え? ……ごめん、無理だ」
「……そばにいてほしい」
「しかしな……」
解ってる……
でも……
「嘘でもいいから…… そばにいるって……」
言いかけた途端、目の前の彼が歪んでいく。
バカだ、私はバカだ……
せっかく来てくれたのに、こんな子供じみた事を言って困らせて。
耐えきれなくなって思わず視線を落とす。 と、その時、不意に彼の腕が私を抱き寄せた。
「ごめんな」
あやまらなくていい!
その言葉だけを言いたいのに、上手く声にならない。
それどころか唇が情けなく震えて、思わず息が詰まりそうになる。
心細くてしょうがなかったんだ……
一人で居るのが嫌だったんだ……
貴方に……
逢いたかったんだ……