そばにいて……-2
「風邪ってさ、こじらすとヤバイらしいよ?」
「風邪は万病の元と言いますからね、十分に気を付ける様に」
「それって本当に風邪? インフルエンザとかじゃないの?」
過去に聞いた、風邪に関する様々な、ナーバスな話題が頭の中に浮かんでは消える。
もし、このまま良くならなかったら……
もし、このままベットから出られなかったら……
もしかして私、このまま死んじゃう?
馬鹿な事だ、しかし解っていても頭に浮かぶ。
心細くなって「一人は嫌だ」と情けない事を思う。
そして、そんな事を思いながら私は……
ようやく訪れた睡魔に、落ちる様に身をまかせた。
どれくらい眠っただろう。
玄関から「ガチャ」と物音がして、やたらとそれが部屋中に響いて、私は目覚めとともに瞳を開けた。
普段なら驚いて身構えるところだが、とてもそうする気になれないのは、たぶん体がまだダルいからだ。
とりあえず、ベットの中から耳を澄ます。
そして、音のみで様子を伺う事数秒……
今度は「キィ」と玄関の扉が開く音が鳴り、同時に「おーい、居ないのかー」と聞き馴染みの深い、とぼけた声が響いた。
彼だ……
玄関からリビングへ、次にその奥のこちらへと足音が近付いて来る。
そして、足音は私のすぐ側で止まると「あれ、寝てんの!」と声をあげた。
「……起きてるわよ」
何故か訪れた、忙しくて今日は来れない筈の彼に、私は喜びを感じつつも驚きを隠せず、どうしようもなくて布団の中から声を返した。
髪だってボサボサだし、お風呂にも入れてないし……
「連絡がとれないから心配でさ? まったく、初めて合鍵を使っちまった」
「……いつの話?」
「さっき。携帯に二回、自宅に二回」
そういえば、電話が鳴っていた気がするのだ。
その時は、耳鳴りと区別がつかなかったのだが。
「ごめん、わからなかった」
「まったく、もう」
その溜め息は呆れてるのか、ホッとしているのか。
どちらでも困る、こっちはそれどころではない。
「で、これはキスするとお姫様が目覚めるっていうアレか?」
少しだけ顔を布団から出した私の視線の先で、背広姿の彼がニヤニヤと笑う。
「バカ、そんなんじゃない……」
「ああ、見れば解るよ。風邪?」
「……うん」
「飯は?」
「食べてない」
「薬は?」
「飲んでない」
「飲めよ」
「だって…… 無いんだもん」
「まったく……」
また、さっきみたいに笑う。
だが、こればっかりは呆れられても仕方がない、自分自身でも良く解ってる。
返す言葉もなく黙っていると彼は背中を向け、持って来たと思われる鞄をガサガサとやりはじめた。
そして「あった」と呟くと踵を返しながら、こちらに何かを差し出す。