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絶対零度の世界
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絶対零度の世界-4

「お前の為に、沢山人をかき集めたぞ、さ、飲みに行こう」
「あ・・ありがとう」
本当に、余計なお世話をありがとう。
「はい、プレゼント」
言って野山は手編みのセーターを手渡してきた。
人生で最も面倒な誕生日に、乾杯。
その後、やはり僕はそのセーターを着ることは少なかった。特別気に入ったわけでもなく、ただの服にしか思えなかったからだ。野山と出かけるときに、そのセーターを着たことは数えるくらいしかなかったが、彼女はそれを咎めようとはしなかった。
ふ、と思った。今まで付き合ってきた女の子とは違うのかもしれない。
彼女は僕を締め付けようとはしない。
けれどそれは違うのだろう。
このまま一緒にいれば必ず二人は密着し、僕はその状況から一歩身を引こうとする。
そして二人はそのまま破滅へと向かうのだ。
女はそれを怖れ、男はその事実に残酷なまでに興味を持っていない。
そんな中途半端な恋愛ごっこが、これから続いていくのだろう。


ふたり、彼女の部屋、ひとつのベッドを共有して、僕は天井を見上げている。
お互いに無言で、静寂が僕らを包んでいた。付き合いだして約半年が経過していた。そろそろ彼女も気付いているはずだった。そこに愛が無いことを。僕に何も無いことを。
「ねぇ」
彼女が静寂を壊した。
一瞬、別れ話かと思った。そうであっても驚かないし、特に傷つきもしない。彼女のことを考えるのならば、むしろその方が良いのだろう。けれどそうではなかった。
「わたしね、あなたが好き。やっぱり何度考えても、あなたが好きなの。ううん、考えるまでもない」
「考えるまでもない?」
よく分からなかった。
「そう、考えるまでもない。感じればいいの」
言いながら、苺は顔を僕の肩に寄せる。
「分からない、分からないよ」
僕は身を引く。彼女の顔が肩から離れる。
「そうね、あなたは分からない。けれど覚えておいて。それはね、冷たいって事じゃないわ。ただ分からないだけ、どう接したらいいのか分からないだけなの」
「何に?」
見上げる天井には、単調な模様。
「自分の気持ちに、よ。でもいつか、きっと分かる。その気持ちとの付き合い方に、あなたは気付く」
そうなのだろうか。
僕は本当に、ニンゲンなのだろうか。
愛情をもった、ひとつの生物なのだろうか。
そうならばいい。
今は分からないけれど、いつか気付くことができたらいい。
「そうしたら、きっと感じるようになる」
「それは感じるものなの?」
生まれたての赤ん坊のように、純粋な気持ちで問い掛ける。
「そうよ。愛は感じるものよ」
僕は天井に向けていた視線を、苺に向けた。苺は柔らかに微笑んでいた。少し、ほんの少しだけれど、僕の体温が上がったように感じた。今まで人の熱を奪うだけだった僕の心が、初めて人から熱を与えられた気がした。
苺は、顔を僕の肩に寄せた。
その体温を暫く感じていたかった。


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