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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*last*-4

「矢上はいっつも余裕ぶっこいてたからね。落ち込ませてみたかったの」
いつも矢上はあたしをからかう。だからあたしもたまには矢上をからかってみたかった。矢上の反応を見てみたかった。
あたしがそう言うと矢上は「そんなことないよ」と言って足を崩して座り直し、あたしと向かい合った。「余裕なんてなかったよ。音羽ちゃんといる時はずっと焦ってたし落ち着かなかった」
「え?」
矢上からこんな言葉が出てくるなんて思わなかった。
「うっそだぁ…」
「そう思われても仕方ないかも」
矢上が少し笑った。
「バレないようにずっと感情押し殺してたから。でもね嫌いって言われてからだんだん崩れてきたんだ」
いつだったか。矢上があたしに「オレのこと嫌いでしょ?」って聞いてきたことがある。あたしは「嫌い」だと速答した。
「誰かに嫌われるのがこんなに悲しいと思わなかった」
そういえば、あたしが速答した後の笑った顔は確かに悲しそうだった。
「それに」
「それに?」
とくんとくんと心臓が早まる。
「それに初めて嫌われたくないって思った」
今ではだいぶ目も慣れて、矢上があたしを真っすぐ見つめているのが分かる。
そんな目で見つめられるとクラクラする。
「音羽ちゃんだけには嫌われたくなかった。ちゃんと仲良くなりたかった」
「矢上…」
「こうやっていっぱい喋れるようになって嬉しい。それに音羽ちゃんにはすげぇ感謝してる」
「どうして?あたし何もしてない」
矢上の声がすうっと体にしみ込んでいるかのように、空気が軽い。心が軽い。今なら何でも話せる気がする。
「いつもオレを助けてくれた。友達のこと、文化祭のこと、明樹のこと…」
「明樹…ちゃん」
矢上は少し俯いたがすぐに顔をあげてまたあたしを見つめた。
「音羽ちゃんがいなかったらオレ、どうなってたか分かんないよ」
「そんな…あたしは」
体の奥から熱いものが込み上げる。つんと鼻の奥が痛い。
「ありがとう音羽ちゃん。オレね分かった、これからどうしたいか」
「何?」
矢上の手がゆっくりと伸びてきて、ふわりとあたしの頭に置かれた。すごくあったかい。
「音羽ちゃんを守っていきたい。オレにとって大切な人だから」
優しい瞳があたしを見てる。
「それって…」
矢上に体の全てが集中してる。矢上が優しく微笑んで一度あたしをゆっくり撫でた。
「好きだよ音羽ちゃん、すごく大切だよ」
留めておいたものが一気に溢れた。
あたしは両手で顔を押さえる。
溢れるものは止まることを知らない。
「音羽ちゃん泣かないでよ」
心配そうな矢上の声がする。それだけで今矢上がどうしてるか分かる。
あたしを覗き込む矢上が目に浮かぶようだ。
それを考えるだけで涙は更に量を増し、あたしは顔を覆ったまま下を向いた。
頭に置かれた手がゆっくり動く。優しくそっと…。
まるであたしはガラスになってしまったんじゃないかと思う。
矢上は割れ物を扱っているかのように丁寧に柔らかくあたしを撫でてくれた。
矢上の手だけに集中していると自然と心が落ち着いてくる。
あたしも言わなきゃ、あたしの気持ち…。
その時、あたしの手首がそっと掴まれて、だんだんと引っ張られた。あたしはそれに抵抗しなかった。
あたしの顔から手が外された。次は頬がふんわりとあったかいものに包まれた。
矢上の大きい手…。


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