運命=策略?-2
「おはよー」
校門を抜けて、げた箱で上靴を取り出してると、後ろから肩を叩かれた。聞き慣れた声だ。
「うっす」
広川 珠代。中学時代からの友人だ。通称『タマ』。
「な〜に。また朝から元気ないわねぇ」
呆れたようにタマが言う。茶髪のショートボブが揺れて、タマの顔が苦笑をかたどる。
「元気も、あの変人の相手をするのは嫌らしい」
「なるほどねぇ。でも頑張りなさいよ。ブンのストッパーはあんたなんだから」
そして、文明ともタマは友人だ。
いや、いつからオレはストッパーになったんだよ!?
「これで5万4千6百94回目だが、俺の名前は『ふみあき』だ。『ぶんめい』ではない」
隣で上靴を取り出してた文明がしつこく注意しているが、タマはどこ吹く風。
これも見飽きた光景だ。
この舞阪高校に入学して一年、中学時代から数えたらざっと四年は続いている光景だ。見飽きもする。
「オレは先に行くぞ。遅刻になる」
二人を放っておいて、階段を登ることにした。オレ達は二年だから、教室は校舎の二階になる。ちなみに六組だ。
うちの担任は基本的に放任主義なところはあるが、要所要所で厳しい。まぁ、話は解るし美人だしで言うことはない。
「そ、それはマズいわね」
「確かに。あの人の雷は落としたくないな」
言い争いをしていた二人が一目散に駆けてくるほど、怒らすと恐いのだが。
教室についてみたら、すでに転校生の噂が飛び交っていた。やはりそういう話題が回るのが早いのは必然的なものがある気がする。
「みんな、耳が早いなぁ」
感心しながら、自分の席へと足を進める。
オレの席は後ろの方。なかなか日当たりが良くて、居眠りにはもってこいだ。
鞄を置いて、何気なく窓の方を見た。オレの隣にある窓側の席は空席だ。
ってことは、転校生はここに座るって事か?
「今、聞いてきたんだけど女子らしいわよぉ」
タマが寄ってきて耳打ちした。
ほぅ……可愛かったら良いのにな。
「もう浮気か?顔が緩んでいる」
「浮気って、なに辰也、あんた彼女出来たの!?」
文明のいらん言葉にタマが激しく反応した。女の子の例に漏れず、色恋沙汰には興味津々なのだ。
「お見合いで婚約したらしい」
だぁ、文明!
いらん事言うなぁ!!
文明の余計な一言は、クラス中の男子を敵に回すには充分すぎた。殺気立った目をして、彼女のいない奴らがオレの周りを囲む。
「てめぇ、どういうこったぁ!?」
「この裏切り者めぇ!!」
「貴様のような奴は犬に噛まれて地獄に堕ちろ!!」
「どんな女の子だ!?」
いや、いきなりそんなに詰め寄られても、オレ困っちゃう。
というか、うるさいって。
「あぁもう、めんどくせーからオールノーコメント」
「というわけだから、代わりに俺が答えよう。辰也の婚約者の名前は『那岐瑠璃』で、辰也と同い年だ。スリーサイズは……」
隣で変人がオレの代わりに答えだした、ってなんで名前まで知ってんだ!?
す、スリーサイズって!?
「まてこらっ、なんでお前がそこまで知ってる!?」
「決まっているだろう。俺がお前の幼なじみだからだ。十数年間キープしてきた『お前の隣』を奪おうとするライバルのことぐらい知っておかないとな。現代戦は情報が命だ」
う……、と話を聞いていたクラスメートが総出で引いた。スッゴい引いた。