【思い出よりも…終編】-8
「ウゥ……ア、アタシ…」
「け、慶子…ここから出て行くんだ…」
「……」
嗚咽を漏らすだけの慶子。
私は粗くなった息で伝える。
「ここは……いい…から…はやく…逃げろ」
「そんな…」
「早く!!」
残る力で慶子を怒鳴ると、彼女は躊躇しながら部屋を出ていった。
(これでいい…)
私はヒザから床に崩れ落ちた。
モウロウとする意識の中、私はナイフを腹から抜くと、固まった両手をナイフから剥がした。
(まだ死ぬわけにはいかない)
ポケットからハンカチを取り出すと、私はナイフの柄を残る力で擦った。
(これでいい)
目の前が真っ暗になり、私は意識を失った。
「気づかれましたか?伊吹さん」
ぼんやりとした意識の中、まぶしいほどの光と共に、男の声が聞こえた。私はゆっくりと声の方向を向いた。
「……?」
「まだ意識がはっきりしませんか?沢田ですよ」
(沢田…!)
私の意識が一気に弾けた。
「なぜ君が…!」
言いながら起き上がろうとして、腹に激痛が疾った。それを見た沢田は少し慌てた様子で、
「アッ、あまり無理したら傷口が開きますよ!縫ってありますから…」
「なぜ君が、君が病院に連れて来てくれたのか?」
沢田は私のベッドの傍らにあるイスに座ると、語り出した。
「あの日、ホテルまで尾行してたんですよ。貴方が私の提案を受け入れてくれるのかを」
沢田は尚も続ける。