五月、雨、君と夜と-3
◆
君にあった。
偶然だ。
意味なんてない。
歩きだして30分くらいたった時、たまたま、本当にたまたま君に出会った。
スラリとした白のTシャツにフワリとした青いスカートをはいていて、右手に持ったコンビニの袋が、奇妙に君を際立たせていた。
君はものスゴく可愛いかった。
まるで物欲しそうな猫みたいな。
僕は、会って間もないけどそんな不純な事を思ってしまったんだ。
自分が嫌いになるのはこんなに簡単な事なのに、誰かを愛する事は果てしなく難しい。 例えば雲を掴む事の様な、そんな感じ。
君を愛する事も、ただ虚しい。
◆
「めずらしいね。日曜なのにお出かけなんて。 しかも雨なのに。」
君は僕の考えてる事なんて知らないから、普通に話をしてくれる。 暖かくて手放したくない光。
「どこいくの? また散歩?」
はにかんだ様子の君はうつ向きがちにそう尋ねた。 それを見て僕は笑った。
「…? おかしな人ね。」
不思議の三文字が顔に浮かぶ。 その顔も、可笑しかった。
サラサラの髪の毛が、少し揺れた。
「なにも言わないのね。 あっ、そうだ。 缶コーヒー飲む? さっき買ったんだけど、間違えて無糖を買っちゃって。」
そう言って君はコンビニの袋を探る。 その中から出てきたのは小さなコーヒーだった。
僕はありがとうと言って、それを受け取った。
「やっと喋った。 本当、コーヒーが好きなんだね。」
そんな事を言って君はクスクス笑った。
そういえば今日、始めて声を出したな。 生きてる事を再実感。
僕は生きていた。
僕はもう一度、ありがとうと言ってみた。 けれどそれは、雨の中に消えて言った。
君は少し、笑っていた。
◆
しばらくして雨は上がって、君が何かを言おうとしたから、僕はとりあえず君を誘った。
ちょっと話さない?
ただそれだけだけど。 それでも君は小さく頷いたから、僕はいつもの河川敷へと歩きだした。
雲の隙間から光が漏れている。 とてつもなく綺麗だ。
「今日はどうして散歩してたの?また気まぐれ?」
顔を覗き込む君。
顔か近い。
意味なんてないから、頷いておいた。
「おもしろいよね。暇があると散歩。今時いないよ?」
妙に耳に残る言葉だった。
君が微笑んだから、僕もつられて笑った。
そんなに優しい目をされると、笑わずにはいられないじゃないか。
「変なの。 相当変わってるよ。」
そう言ってまた笑った君。
その顔が昼間見た、夢の少女にそっくりだった。
空では星達がいつの間にか光りだし、機嫌の悪かった雲達はいなくなっていた。
なんとなく、大人になれたみたいだった。