ICHIZU…A-4
「オマエ、毎日それだけの荷物を持って来てんのか?」
佳代は手を休める事なく答える。
「そうだよ」
直也にしてみれば、ちょっとした驚きだった。1年以上、一緒にいるが、こんな荷物を毎日持ち帰ってる事なぞ気づかなかったからだ。
だが、それとは裏腹に口を付く言葉は素直じゃなかった。
「何を持って来てんだ?毎日々。オレなんかカバンとリュックくらいなのに」
佳代はチラッと直也を見ると、
「アンタ、ユニフォームは?」
直也は肩をすくめると、
「そのまま部室に掛けてるよ」
「…!だからいつも汗臭いのね!まったく……」
「じゃあオマエは毎日、持って帰ってるのか?」
「ユニフォームどころかジャージもね」
「それで、その荷物か…」
佳代は自転車のスタンドを跳ね上げると、ハンドルを持って校門へと歩き出す。となりには直也がいた。
佳代は直也の方を見ると、
「アンタも毎日とは言わないけど、持って帰ったら?ユニフォーム。有理ちゃん汗臭いの嫌いだからさ」
顔から火が出るとはこの事か!佳代の言葉に直也は激しく反応し、鼓動が速くなった。
「オマエ…な、何を言って…」
佳代は歯を見せてニヤリッと笑った。
「バレバレよぉ!アンタが有理ちゃん追っかけ廻してんの!クラスの皆んな知ってるよ」
「…何を…根拠に…」
直也は全身から脂汗が出るのを感じだ。
相田有理。佳代や直也と同じクラス。部活はやっていない。勉強が出来るタイプだが、おっとりとした性格と可愛らしい顔立ちから男子に人気のあるタイプ。直也は事ある毎にその娘のそばに行きたがるので、クラスの女子全員が分かっていた。
直也のあまりの動揺ぶりに、佳代は声を出して笑った。
「アッハッハッ!……まあ、いいや。野球やってて多少は馴れてる私でさえイヤなんだからさ。有理ちゃんなんかもっとだよ…」
直也は黙ってしまった。佳代のアドバイスにも反応しない。
(ちょっと言い過ぎたかな?)
佳代がそう思っていた矢先、直也は突然、“ちょっと待ってろ!”と言って、部室の方へと走って行った。
「ちょっと!」
佳代の言葉なぞ耳に入らないようだ。それから数分後、息を切らせて直也が戻って来た。佳代が見ると、その手にはユニフォームが握られていた。
それを見た佳代は、ニヤニヤ笑っている。