ICHIZU…A-2
ー昼休みー
「だから私は必死に走ったんだけど、遅れちゃって……」
「それで?」
「やっとの思いで最後まで走ったんだけど、皆んなはすでに整列してたの。私、列に入ろうとした時、あのキャプテンなんて言ったと思う!?」
「さあ?」
「お前はそこで休んでろ!って。ひどいて思わない!?」
グチを聞いていた尚美は、佳代の語りが最初はとつとつとしていたのが徐々にエキサイトしていき、身振り手振りを混じえたモノに変化していくのを眺めながら、
(なんとまぁ感情の起伏が激しいんだろう。猫の眼のようにクルクル気持ちが変化して)
佳代の話が終わると尚美はヒザに手を置き、しばらく天井を眺めてから、
「それさぁ、いじめじゃなくてキャプテン、アンタを庇ったんじゃないの?」
「へっ?」
尚美の意見に佳代は面喰らった。彼女からの答えを“かわいそうに”と言われるのを期待していたのに、想定外の答えに正直驚いていた。
「だ、だって今まで何にも言わなかったんだよ!監督だって。それが今朝に限って!」
「そりゃ監督は部員の手前、アンタだけ特別扱いは出来ないよ。キャプテンだって監督の見てる時は。それが、今朝は監督いなかった、だからよ」
尚美は自信に満ちた顔で佳代に答える。が、佳代もなかなか尚美の答えを受け入れない。
「だったら!あんな突き離した言い方しなくったって…」
尚美は小さく笑うと、
「それこそ皆んなが見てるでしょう。立派なキャプテンじゃない。佳代の身体を心配してくれるなんて普通はいないよ!」
佳代は尚美から視線を外すと横を向いてしまった。唇をかたく結び遠くを見るような格好は、まだ納得していない様子だ。
尚美はその佳代の仕草を見て“カワイイ奴”と思いながら、ちょっといじめたくなった。
「ところでキャプテンの川口さんて、付き合ってる娘、いるのかな?」
「さあ、知らない」
無愛想に生返事をした佳代は、次の瞬間、食い入るように尚美を見ると、
「今、何て言ったの!!」
尚美はしごくノン・シャランな表情で、
「誰か付き合ってる娘が居ないのなら行こうかなって…」
佳代はマジマジと尚美を見つめる。
「アンタ…本気?」
「本気よ!佳代も応援してね」
尚美はそう言うと屈託のない笑顔で笑った。その話に煽られてか、佳代の頭の中からは先程までの悩みはスッ飛んでしまった。