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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第2章-3

「っ…あの馬鹿!」

…でも、背中を走る悪寒がこれは「もっと悪いものだ」と告げた気がして、薙刀の入った袋を持っていった。

そこには、うずくまっている司書らしき影と、その前に、盾と剣を手にして立っている飃がいた。彼が対峙しているのは…

「あおやませんせい―――?」

でも、彼の身体は醜くゆがみ、白衣も、スーツも、その下で隆起した肉体によってぼろぼろに引き裂かれていた。ちょっと長めの黒髪は逆立ち、顔全体が黒ずんで……

まるで…まるで……

「化け物め!」“先生”は言った。というより、その声は耳障りなわめき声でしかなかった。

「その盾を持っているということは、槍もすでに取り出したのだろう!え?その売女は何処におる!」

飃は盾を構えたまま言った。
「己の妻を売女呼ばわりするのは止めてもらおう。さもなくば、己の剣が、お前の咽喉を真っ先に切り裂いてくれるぞ」

「しゃらくさいわ、狗風情が!お前の一族が束になってかかっても、あのお方に毛筋ほどの傷をも負わせることは出来なかったではないか!」

そういって、そいつは身体から幾本もの(あれは…蛇?)縄を、飃に向かって迸らせた。すると、飃は盾を掲げた。漆黒の盾が、まるでブラックホールのように、蛇を吸い込んだ。その一瞬の隙を突いて、そいつは飃に襲いかかろうとしたけど……飃が右手に持っていた剣で、そいつの右手をなぎ払った。

あたりには耳を劈(つんざ)く悲鳴が忌引き渡り、そいつは腕を失った。

私は、恐怖で足に根が生えたように立ち尽くしながら、戦いの成り行きを見守ることしか出来なかった。けれど、いつのまにかそいつの悲鳴は嘲笑に変わった。切られたはずの腕が、再生しているのだ。

「カかカカカ…愚かな犬よ。貴様の鈍(なまく)らで幾ら我を切ったとて、無駄よ。我らはあの薙刀でなくば滅すること能(あたわ)ず…!」

――――私のことだ。

私が行かなきゃ、決着がつかない。私が行かなきゃ……

「そこで死ぬまで立ちくしておるがいい、無力な犬よ!」

化け物がその言葉を言い終わらない内に、飃は地面を蹴って、化け物に踊りかかった。それは、恐ろしく迅い、見事な跳躍だった。

「ぎゃぁああぁあぁぁ・・・!!」

飃の一閃は化け物の目を捉え、しばらくの間目を見えないようにした。すると、飃の目が、私を捉えた。声は聞こえなかったけど、飃の口はこういっていた。

「一瞬だ」

私はうなずいた。飃に見られたことで、私をそこに縛り付けておいた鉛の重りが、溶け去ったように思えた。


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