レン-22
重役会…。
これは願ってもないチャンスだ。部長以上の人間が一同に会するとなれば、組織の全権力はその場に集中する。もしその場をINCと麻取で抑える事が出来れば、間違いなく組織は壊滅するだろう。
その機会を逃す訳にはいかない。
その為にも重役会が開かれるまでの間、俺と彼女に失敗は許されない。
与えられた仕事を完璧にこなし、さらに摘発に向けての準備も整えていかなければならないのだ。
ダークネスの完全なる消滅には、密造地の特定が必要不可欠だ。
田端は密造地の場所を知らなかっただろう。田端は元々コネで組織に入ったのだ。才能や腕を見込まれた訳では無く、専務友常の甥という理由で常務の役職についていた。
だが叔父であり田端を組織に招き入れた張本人である友常も、近頃では全く使い物にならない田端を見放していたようだ。
したがって、田端は密造地以外の機密を握っていたとも考えにくい。
だが念には念を入れ、田端の身辺も調べておくべきだろう。
日が傾きかけた頃、組織の倉庫にいる部下から連絡があった。
彼女とフールが納品に向かったという連絡だった。
だがそれは通常の納品とは随分様子が違った。
トラックに乗り込んだのはフールだけ、そして積み荷は空のケース。
一方彼女の方は俺が倉庫に用意しておいたポルシェにダークネスの入ったケース。
更に囮のトラックを使用しなかった二人は、通常の倍以上の武器を持ち出した。
俺はそれらが全て彼女の指示だという事を聞き、ある確信を持った。
彼女はトラックジャッカー達を完全に排除してしまうつもりなのだろう。
今日フールを彼女の元へ向かわせたのは、本当にいいタイミングだった。
フールは常務の裏切りの事実だけでなく、彼女の腕や度胸、彼女が組織にどれだけ必要であるかを知る事になるのだから。
その後、俺は田端の使っていたマンションへとコルベットを走らせた。
だがそれは全くの空振りだった。
田端の持っていた鍵束の中の一つを使ってオートロックを解き部屋に足を踏み入れると、そこにあったものは女と楽しむ為だけに作られた空間だった。
無駄に豪華な内装、大きなベッド、様々な薬にいかがわしい玩具、そしてノートパソコン。
なんとも趣味の悪いその部屋には、組織に関わる物は一切置かれていない。
どうやら田端は流通に携わる人間の監視以外、仕事らしい仕事を与えられていなかったようだ。
俺はノートパソコンだけを持って田端の部屋を出ると、ライファーに連絡を入れた。
『俺だ。一つ俺の頼みをきいてくれないか?』
俺の突然の言葉に、ライファーは落ち着いた様子で答えた。
「俺の娘をくれと言わない限り、なんでもきこう。」
ライファーには溺愛する娘がいる。だが彼の娘は既に彼の元を離れ、世界中を飛び回る仕事をしているらしい。
『この捜査が終わった時、俺にパートナーを迎えたい。日本麻取から。』
そう、それは彼女の事だ。
「答えが出るのは重役会の後のはずじゃなかったのか?」
『あぁそうさ、俺と彼女が無事に生き残れればの話だ。』
俺は言った。
「いいだろう。麻取が何と言うかはわからんが、俺は了承しよう。」
『恩に着る。』
「それまで、彼女を離さん事だ。彼女はお前の正体を知らない、お前の本当の正体を知った時、彼女はどうするかな。」
俺はそのライファーの言葉に、返事を返す事なく電話を切った。