特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.5-10
「白石は昔から男に不自由しないタイプの女だった。男の方から声が掛かるのが常で、本人も否定しないからいつも誰かしらの隣りに座っていた。俺が白石と知り合いになった時も、俺の悪友の隣りに座っていたからだ。
愛想がよく、あまり自分を表に出さず、酒は殆ど飲めない。彼女として連れ回すには恰好の女だ。付き合う時も別れる時も簡単で後腐れない。話を聞く限りじゃ機械みたいでパーフェクトな女だと思ったね。
だけど俺は引っ掛かった。そこまですんなりいくのがどうも気に食わない。だから直接聞くことにした。
男が憎いのか、ってな。
そしたらあの女、それはあなたでしょう?とか言いやがる。確かに俺は歪んでるがあいつ程じゃない。
絶対に本心は打ち明けなかったが、見ている限り、白石は別れを告げられるのを恐れていたと俺は推測する。
嫌になって別れるのでは無く、不安になると別れを告げる。別れづらそうな時は姿を眩ます事もしょっちゅうだ。
自分も相手も深くは入り込まないうちに手を引く。失恋の痛みすらない、そう言う別れ方だ」
ふぅと息を吐き、真っ直ぐに瀬田を見つめた。その顔はいつもの適当な感じは微塵も無い。
「だが、お前だけは違った。ニ年以上も続く事は白石にとっては有り得ない。白石自身も驚いていた。
誰かにこんなに執着する事が、自分にも出来る事にな」
見ると瀬田の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちていた。大河内は黙ってティッシュボックスを渡し、煙草を咥えて火をつけた。
「……僕は、どうしたらいい?僕は、先生を助けたいんだ……」
掠れた声で瀬田が言う。涙は意識した瞬間から次々と溢れ、たくさんのティッシュに吸い込まれている。
「どうしてもか?」
瀬田は深く頷く。
「白石の為にどんなことになっても、お前は逃げないのか」
さっきより更に深く頷いた。瀬田はもう涙を流してはいなかった。
「先生以外、僕に必要な物はない」
大河内はゆっくりと煙草の火を消す。
そして机の上で山積みにされているファイルの中から一枚のレポート用紙を引き抜いて瀬田に渡した。
行って来い、と背中を押して。