投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

雨と、微笑みと
【コメディ 恋愛小説】

雨と、微笑みとの最初へ 雨と、微笑みと 1 雨と、微笑みと 3 雨と、微笑みとの最後へ

雨と、微笑みと-2

「ああ、これはまた降るぞ?」

 たしなめる様な物言いに機嫌を損ねたのか、彼女は声を鋭く「予報が当たったのよ! 雨は止んだじゃない!」と踵を返す。

「いや、しかしだな……」
「もういい! 一人で出掛けるから!」

 そう言い置いて玄関へと向かう背中を、俺は再び溜め息を漏らしながら、ただ見送った。
 一度言い出したら聞かないのだ、ことに彼女の場合は。


 それから間もなく。
 俺の予想は当たってしまった。
 雨が止んでも消えることのなかった雨雲からは、再び斜めの雨粒が溢れ始め、ものの数分も経たないうちに元通りの景色が窓に映り始めた。
 
 さて、彼女が戻ったら、どの様に笑ってやろうか。

 悪戯に、少々意地悪く、そんな子供染みた事を考えながら玄関に目をやると、不意にシューズボックスの傍らに彼女の水色の傘が立てかけてあるのが見えた。

あのバカ……

 まあ、晴れると信じて出掛けたのだ、考えられない事もないが。
 しかし、見切り発車にも程があるというものだ。
 それに、今は梅雨時だぞ……

 心の中で、ありったけの文句を並べながら、水色の傘に手を差し延べる。
 そして、玄関のドアを開けると、彼女が向かいそうな場所を頭に思い浮かべながら、雨の街へと靴先を向けた。

 大通りの中程、小さなカフェの窓際に彼女は居た。
 手元には、出先で買ったと思われる本が開かれているが、窓の外へ視線を外しているのは、買ってはみたものの大して面白くも無かったのだろう。
 店の入り口から、彼女の座る席へ。
 こちらに気が付いて、一瞬双眸を丸くする彼女に傘を差し出しながら「もしかしたら、待ってた?」と少し微笑んでみせる。

「ええ、雨が止むのをね……」

 バツが悪そうに、しかしそれほどでも無い様に反らした視線の先には、相変わらずの雨が午後の街を淡く煙らせていた。


 こうして、結局いつも通り、街を二人でふらふらと歩く羽目になってしまった。
 カフェから家までの道のりを……
 いや、少しだけ遠回りをした。
 別に、大した理由は無い。
 ただ、彼女が、俺が水色の傘しか持って来なかった事に、少しだけ嬉しそうな顔をしたから……

「ねえ、たまにはいいよね? こういうのもさ」
「よくない。ちゃんと二本、傘を持って来るべきだった」

 一本の傘の軸を挟んで、彼女が笑い、俺が顔をしかめる。
 しかし、実のところ、それほど悪い気はしないのだ。
 彼女が喜ぶなら、それはそれで良いと思うし、寄り添いながら歩くから、濡れた右肩もそれほど気にはならない。


 雨は相変わらず降り続いている。
 だが、二人が家に着くそれまでの間なら……

 それも、悪くはないと思うのだ。


おしまい


雨と、微笑みとの最初へ 雨と、微笑みと 1 雨と、微笑みと 3 雨と、微笑みとの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前