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雨と、微笑みと
【コメディ 恋愛小説】

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雨と、微笑みと-1

 金曜日の夜から降り始めた雨は、今朝になっても止むことはなかった。

 起きぬけの、南側の窓からカーテンを開けて空を睨むと、空一面に煙を充たした様な雲が拡がり、銀色の斜線は相も変わらず絶える事なく降りそそいでいる。

「……まだ、降ってる?」

 少し遅れて目を醒ました彼女が、背中から気だるそうに声を投げる。
 俺は「ああ」と短く返すと、キッチンへと向かい、ヤカンを火にかけながらコーヒーの瓶を探した。

 これといって、予定の無い週末だから、雨だろうが晴れだろうが、別段問題は無い。
 いや、寧ろ先週の疲れを若干身の内に残してしまった俺としては、雨である方が都合が良かったりするのだ。

「これじゃ、何処にも出掛けられないわね」
「ああ、雨だからな」

 そう、雨だから仕方がないのだ。
 いつもの公園も、オープンカフェも、街でウィンドウショッピングも今日は無理。
 行動派の彼女には申し訳ないが、今日は一日中のんびりと過ごしていようと思う。

 ごろりとソファーに仰向けに寝転び、四折りにした新聞に目を細める。
 すると、その傍らでテレビをボンヤリと眺めていた彼女が、刹那に声を上げた。

「ねぇ、昼過ぎには上がるって!」
「何が?」
「雨よ、雨!」

 テレビには今日の天気図が映り、ナレーションが淡々と首都圏の天気を告げている。

「あてにならないな…… 真に受けるなよ?」

 事実、最近の天気予報は当たった試しがなく、今週は二度も鞄に入れっぱなしにしてあった折り畳み傘に助けられた。

「あ、いけないんだ?後ろ向きな考え方は!」
「無駄に前ばっか見てると転ぶぞ?」

 そうだ、たまには足元を見据えて、己の立つ位置を確かめる事も大切なのだ。
 だから、今日はのんびり。

 しかし彼女にはそんな、俺の深い趣きは理解し難いらしく、納得のいかない様子で「じゃあ、本当に晴れたらどうするのよ?」と口を尖らせる。

「そうだな、二番街の洋服屋で何か買ってやるよ」
「ふふっ、いいわねぇ…… その話、のった!」

 彼女はそう言うと、満面の笑みを浮かべながら、身支度を整える為にクローゼットの在る寝室へと消えた。

 あまり張り切るなよ、どうせ今日は一日中雨だ。


 ところが、だ。
 どうした事か、昼過ぎに雨は上がった。
 予報通り、晴れた訳ではないものの、とりあえず雨は上がったのだ。

「ほらっ! 見て見て? 雨が上がったわ!さあ、出掛けるわよ?」

 カーテンを勢い良く開けながら、得意気に声をあげ 「約束は覚えているわよね?」と彼女。
 やれやれと溜め息を漏らしながら、促されるままに窓辺に立つと、雨は止んでこそいるものの、今朝の様相のままの灰色が空一面に拡がっていた。


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