Out of reality the world-6
「逃げてっ」
地面へと尻餅をついている彼女に声をかけると、彼女はさっきまで上がらなかった腰を軽々しく上げて立ち上がった。さっき僕が投げ飛ばしたおかげで直ったのだろうか。立ち上がることができた彼女は「た、立てました!」と笑みを浮かべる。だが、今は笑みを浮かべるよりも逃げることだ。
「今のうちに逃げろっ!」
「あ、あなたはどうするんですっ!? 一緒に逃げないんですか!?」
「僕も逃げるけど今の状態じゃ足手まといになる。君は全力で走って逃げてっ」
「で、でも「いいからっ!!」っ!」
彼女は僕の叫びに一瞬戸惑いを見せるが、意を決したように「ありがとうございます!」と僕にお礼をして逃げていく。ほんと、こんな状況でも他人の心配ができるなんて、彼女はやさしい心の持ち主なのかも知れない。
僕は自分も逃げるため胸の痛みを絶えながらも走ることにした。未だ化け物は地面を転げまわっていて、思っているよりも時間を稼げるかもしれない。
【4】
走る。走る。なんのためにかって? アイツから逃げるために決まってるじゃないか。
あれから自分の全力を使って走ってきた。たぶん、ここまで本気で走るのは人生で初めてだろう。といっても全然早くもなく、早歩き程度の早さだけど。
距離を歩くごとにしだいに視界がぼやけてきて、胸の痛みも今は感じなくなってきている。足もだんだんと錘を追加していくように動かなくなっていき、そろそろ、限界がきたのかもしれない。
――あの子は大丈夫かな?
ふと、先ほどの彼女のことが気になった。ちゃんと逃げているだろうか? ちゃんと逃げてくれなきゃ僕が命を張ったことが無駄になってしまう。
「くっ……」
マジでやばい。視界がグラグラしてる。
「大丈夫ですかっ!?」
ああ、彼女の幻聴が聞こえる。ほんとやばいかもしれない。あ、そう思ったら急に眠く――
「幻聴じゃありませんよ! しっかりしてください!」
「って、え? 幻聴じゃない?」
「だから幻聴じゃありません!」
狭まっていた視界が少しだけ広くなり、さっき逃げたはずの彼女が心配な面持ちで僕を見ていた。
「……おやすみなさい」
「きゃーー! 寝ないで下さい! 寝たら死んじゃいますよ!」
閉ざそうとしていた瞼をグイッと強引に開けられる。
「何?」
「何じゃありませんよ!」
「今、とても眠いんだ。もう、疲れちゃったよパトラッシュ……」
「だから寝ちゃ駄目ですって! ってパトラッシュって何ですか!!」
むむ。最初の頃よりキャラが変わってないか? お母さんはそんな子に育てた覚えはありません!