【思い出よりも…後編】-5
「な、何をするんです!お義父さん。手をあげて下さい!」
私は義和に近寄ると、両肩を起こした。
「目上の貴方が私に向かって土下座なんかしないで下さい!」
「こんな白髪頭でよければいくらでも下げる!どうか加奈枝を…」
「そんな事言わないで!それにいくら土下座されても、私の気持ちは変わりませんよ!」
義和は食い入るように私を見上げると、身体を起こして、
「これほど頼んでもダメかね?」
「もう決めた事ですから…」
義和は座り直すと、しばらくうつ向いた。が、次の瞬間ヒザを打つと笑顔で、
「分かった。君はメジャーな決断を下したんだな。もうこの話は止めよう」
「すいません…」
「ヨシ!飯にしよう。久しぶりのうなぎを楽しみにしていたんだよ」
務めて明るく喋る義和の振る舞いが、私には哀しく思えた。
それから2週間後、妻からの離婚届けが届けられた。
…【思い出よりも…後編 完】…