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【思い出よりも…】
【女性向け 官能小説】

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【思い出よりも…後編】-4

ー翌昼ー

和真に行くと義和はすでに待っていた。店内には日曜昼という事もあってか入口のカウンターは全て埋まり、テーブル席もほとんど空きが無いほどだった。
奥の厨房からはうなぎの焼ける音と甘いタレの香りが漂い、自然と口の中に唾液が湧いてくる。

私は店員に案内されて、2階にある座敷席へと歩を進めた。

「お義父さん!ご無沙汰しております」

義和は早くから待っていたのか、すでに酒を呑んでいた。私の声に反応した義和はヒザを着くと、

「すまないな。急に呼び出しちまって。さあ!上がってくれ」

そう言って義和は立ち上がると、私を上座へ座るよう促す。

「そんな!お義父さん。私は下座で…」

義和は私の言葉を制すると、

「何を言っとるのかね。今日は来てもらったんだ。さあ、」

仕方なく私は上座へと座った。

黄土色の土壁に障子窓。磨きあげられた床柱。その床の間には山水画が飾られている。うなぎ屋というより老舗の割烹といったいでたちだ。階下の喧騒もここには届かない。

「食事は後にして、まず話をしようか」

義和は明るく振る舞おうとするが、どこかぎこちない。私はただ黙って頷いた。

「加奈枝の件なんだか…君はどうするつもりなのかね?」

私は大きく息をすると、真っ直ぐに義和を見据えて答えた。

「離婚……でしょうね」

私の答えを聞いた義和は、少し落ち着きを無くし、ポケットからタバコを取り出すとライターで火を着けた。
部屋に漂う青いケムリ。義和はゆっくりとタバコを吸うと、大きくケムリを吐いた。

「それを反古には出来ないかね?」

タバコを持つ義和の指は小さく震えていた。

「無理ですね。これほどお互いの気持ちが離れては…」

「加奈枝に訊いたよ。ウチに帰って来た理由を…」

「さぞ、冷酷だと言っていたでしょうね」

「ああ…だが、私は思ったよ。君は100パーセント正しいとね」

義和の意見は、私にとっては意外だった。

「私もかつては会社員だった。だから分かるんだ。“ささやかな幸せ“を望む小市民的発想しか出来ない加奈枝と君が同じ屋根の下で暮らすのは無理だと…」

義和はさらに続ける。

「アレは性格がねじ曲がっている。自分の事を一番に考え、皆が従うのが当たり前と考えてる」

そう言った後、義和は“もっとも、そう育てたのは私だがね“と頭をかいた。

「そこまで分かってらっしゃるなら何故、離婚を反古にしろと言われるんです?」

「あの通りの性格でプライドだけは高い。今後、離婚したら、それが原因で身をもち崩すだろう。いくらなんでも我が娘がそうなるのを黙って見るには偲びない」

義和は、そこまでをまくしたてるように言うと、座布団を外して、

「雅也君!どうか娘をたのむ!」

と、私に向かって土下座した。


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