【思い出よりも…後編】-3
ー夜ー
自宅に戻ると、真っ暗な中でグリーンのランプが点滅していた。電話の留守電ランプだ。部屋の明かりをつけて、留守電を再生させる。
「…ああ…義和だが……また連絡する…」
今後は加奈枝の父親からだった。
すぐに連絡をとろうとしたが、止めた。加奈枝や義母が出たら、話がこじれる恐れがある。それに義和は“また連絡する“と言ってるのだ。
私は背広を脱ぎネクタイを外すと、ホーム・ウェアに着替えて風呂の用意を始めた。
加奈枝が実家に帰ってすぐの頃は、風呂や洗濯は苦痛に思えたものだが、今では仕事を忘れさせてくれるちょっとした吐け口にもなり、楽しみとさえ思えるようになっていた。
洗濯と風呂を終えた私は、リビングでビールを呑みながらテレビを見てくつろいでいた。
そこに電話が鳴った。時刻は午前になりかけていた。
「はいっ、伊吹ですが」
「ああ…雅也君かね」
「お義父さん!いったいどうしたんです?こんな夜更けに電話なんて…」
義和もかつて石油開発業者の資材部の部長を務めていたほどの人物だった。資材部とは読んで字のごとく、世界中を飛び回り売り物の資材=石油をかき集めてくる部門だ。
「電話をするには、失礼な時刻と言う事は十分承知しているよ。やっと妻や加奈枝が寝たんでね。彼女達には聞かれたくなかったんだ」
「分かりました。で、ご用件は?」
「ぜひ君と折入って話がしたいんだが、時間を作ってもらえないかな?」
私はしばし考えて、
「明日はどうです?日曜日ですし、1日中空いてますが」
「じゃあ、昼にしよう。“和真“に予約を入れておくから」
和真とは義和が馴染みにしているうなぎ店の屋号だ。
「はい、では明日昼に……」
私は受話器を戻しながら、“いよいよ来るものが来たか“と憂鬱な気分になった。とはいえ、いずれは決着をつけねばならない事ではあるが。