舞子 〜俺の彼女〜-2
「コーヒー、そんなにウマイのかよ?」
セイの整った横顔にムカムカしながら、缶を取り上げた。
(にがっっ!ブラックかよ!?俺は甘党なんだ!!)
思いっきり嫌な顔をした俺を、セイはバカにしたように鼻で笑う。
「おこちゃまだな」
(お前のその余裕の表情がムカつくんだ!!)
カッカしている俺を無視して、セイは柵にもたれ、空を見上げてつぶやく。
「いい天気だな」
「あぁ?」
見上げた空は、どんよりと雨が降りそうに曇っていた。
(コイツ…舞子と同じ事言ってやがる…)
なんとなく、ムッとした。
俺にはこの天気の良さが分からないから。
姉弟ってこんな好みまで似るものなのか?
「どこがいい天気なんだよ。湿度高くて最低だよ」
ブラックのコーヒーを一気に飲みながら俺が言うと、
「……雨の匂いがするだろ?」
気持ち良さそうに空を見ながら、セイは言った。
放課後のデートは、近くの公園。2人でのんびりしたいっていう、舞子の希望で。
子供も来ないような寂しい公園だから、いつも俺たちの貸切状態だ。
ぽつぽつと、置いてあるベンチの1つが、いつもの指定席。
舞子は俺の隣に座って、コーヒーを飲んでいる。俺はコーラ。
両手で缶を覆って、今日あったことなんかを楽しそうに話す姿が…
(…かわいい…)
ふと、気付いた。
そういえば、舞子もコーヒーはブラックなんだな。
セイと同じコーヒーだ。
俺は、今日の屋上でのことを思い出して、嫌な気分になる。
そして、そんな器の小さい自分が嫌になった。
(全く…恋ってやつは心が狭くなってイカンな)
彼女の弟に嫉妬するなんて、どうかしてる。
「どうしたの隆史?口数少ないけど…おなかすいたの?」
コーヒーを飲みながら、上目遣いで俺を見る舞子。
――まぁ、腹も減ってるけど――
「隆史?」
黙って舞子を見つめる俺を不信に思ったのか、今度は缶を置いて、俺に向き直った。
まるい瞳が俺を見ている。
そっと、
腰をかがめて、舞子の綺麗な唇を塞いだ。
優しい舞子
綺麗な舞子
心まで全部 俺のモノにしたい
長いキスの後、舞子は少し微笑んで「どうしたの」と言った。
「舞子が食べたくなったんだ」
俺がそう言うと、大きな目を更に大きくした後、
可笑しそうに、笑った。
舞子とのキスが、セイの飲んでたコーヒーと同じ味がして、
俺は、また、嫌な気分になった。
「俺のこのイラつきは全てお前のせいだ!!」
いつもの昼休み。
いつもの屋上。
俺は声を大にして、セイを指差す。
「…何を言ってんだ、お前は」
今日もいつもの缶コーヒーを飲みながら、呆れた顔で俺を見るセイ。
そのカッコ良さが、俺をイライラさせるんだ!!
(悔しいから、そんな事言わないけどな!!)
「とにかく、お前は舞子と離れろ!家を出ろ!同じ空気を吸うな!!」
「……バカか、お前は」
バカな事を言ってるのは分かってる。
でも、弟だってだけで、俺以外の男が舞子と一緒に居るのは心配なんだ。
しかも、セイは男前なんだ。だから心配なんだ。
それが、実の弟であったとしても、だ。
混乱して立ち尽くす俺を横目で見ながら、ため息をつくセイ。