ICHIZU…@-1
ー早朝ー
若葉香る初夏のまどろみ。水平に射し込む陽光は適度な温かさを生み出し、スズメやメジロの鳴き声が、喧騒な朝を癒している。
そんな気持ちの良い朝を迎えたのに、佳代はまだ堕眠をむさぼっていた。
中学2年。野球部に入ってから一年を経過しようとしている。
小学生の頃から野球が大好きだった佳代は、中学入学と同時に野球部を熱望した。が、監督から“前例が無い“と入部を一旦は断られる。
しかし、彼女は監督をなんとか説き伏せると“賭け“をしたのだった。一週間、野球部の練習に帯動し、監督が認めたら入部許可を出すというものだった。
果たして佳代は、見事賭けに勝って入部を認められた。
あれから1年、彼女は男子に混じって部活をこなしてきた。
佳代のベッドから、けたたましい音が鳴り響く。目覚ましのアラームだ。
「…ウッ……ンッ…」
音に反応して、佳代の右手は宙を泳ぐ。その目はしっかりと閉じられたままに。
右手は目覚ましのボタンを探しあてると、押した。チンッという音を残して部屋は静寂を取り戻す。
「母さん、おはよう…」
起きて来たのは弟の修。アラームの音にムリヤリ起こされたのだ。彼は佳代の2歳違いで小学6年生。今年から佳代が在籍していたジュニア野球チームのキャプテンになった。
修は大きなアクビと伸びをすると、
「…オレ…素振りしてくる」
と、キッチンから離れようとする。その修を母、加奈が呼び止める。
「修、お姉ちゃん起こしてらっしゃい!」
修は眉毛にシワを寄せると、さも不満気な声で、
「またぁ?オレ、いつも起こしてるんだよ!」
「仕方ないでしょ!部活に遅れるから。ホラッ」
独り言と佳代の部屋への階段を登る仕草に不満を全面に表現しながら、修は姉を起こしにいく。
ガチャッと開けた部屋奥のベッドの上で佳代は寝息を立てていた。
(相変わらずスゲェ寝相だ)
うつ伏せで両手は枕を抱えるように。そして、片足はヒザを曲げて脚を拡げている。“我が姉とはいえとても女の子と呼べるモノじゃない“と修は思った。
「姉ちゃん!起きて…起きろよ!」
修は声と共に姉の両肩を強く揺らす。しかし、声は漏らすが、目を覚まさない。修はため息を吐くと意を決して佳代のワキ腹をくすぐりだした。
「……!ちょっ!や、やぁ、アハハハハッ!」
身をよじってワキ腹への攻撃を逃れようとする佳代。
「アーーッ!…し、修…アハハッ!…わかったから…」
「目ェ覚めたか!姉ちゃん」
「…はい……覚めました…」
「いい加減、自分で起きてよ。ここんトコ毎日オレが起こしてんだよ」