ずっと、好きだった(3)-2
秀司と続いているのかを聞かれたとき、私は『うん』と短く答えた。
『もう、終わったよ』と偽れなかった私は、ある意味でとても卑怯だ。
「これから、どうする」
店を出ると、そう尋ねながら彼は振り返った。
「…帰るか?」
どう答えても、正解ではないのだろう。
それならば、今くらいは彼のために。
自分自身に、そんな言い訳をしてみる。
「映画、見たいな」
「何の?」
「特にあるわけじゃないけど」
「なら、とりあえず映画館に行こう」
悠紀の、こういうマイペースな所が好きだ。
いき急ぐ感じのない、だからといって怠惰もない、相手を巻き込むのではなく寄り添うような独特のペース。
横で揺れる左手に、触れたくて堪らなくなる。
手を繋いで歩きたい。
「ゆうき…」
思わず手をのばしかけたとき。
「あれ?紀子?」
「わっ。幸恵」
大学の友人が、私たちの前で足を止めた。
「偶然だねぇ!何して…」
彼女の目に、悠紀の姿が映った。
みるみる輝きを放ってゆくそれに、嫌な予感が全身を襲う。
「秀司くん?」
幸恵は無邪気にそう尋ねた。
行き場を失った右手の先が、ズキズキと痛んだ。
「樫井悠紀です」
彼はいつもより高めの声でそう言い、軽く頭を下げる。
「あ、ごめんなさい。彼氏かと思っちゃった」
幸恵は屈託のない笑みを浮かべ、自己紹介を続けた。
彼の対応が自然であればあるほど、私の胸はとてつもない苦しさに蝕まれてゆく。
嫌だ。
もう、彼に嘘をつかせるのは嫌だ。
彼が傷つくのは嫌だ。
「樫井さんは、紀子のお友達?」
ああ、違う。
彼が傷つくのが嫌なのも本当だけれど、それ以上に。
自分が傷つくのだ。
そんな風に、普通になんてしてほしくない。
友達だ、なんて、微笑んだりしないで。
「違うよ」
彼が答える前に、私はそう口にしていた。
私の中の狡い計算式は、膨れ上がる想いに押し潰されてしまった。
「先輩?」
「違う」
「じゃあ…」
幸恵の表情に、疑惑の色が帯び始める。
私、何言ってるの?
「友達なんかじゃない」
やめなきゃ。
冗談にしなきゃ。
「悠紀は…」
「ノリ」
咎めるように、彼が私の名を呼んだ。
「そろそろ行かないと」
彼の声に、やっと唇が止まってくれた。
そそくさと彼女に別れを告げ、私たちは少し早足でその場を離れる。
そして、人通りの少なくなってきた所で、彼は立ち止まった。
「…変に気遣わせて、ごめんな」
また、彼は謝った。
ちっとも悪くないのに。
私のせいで、彼はいつも悲しそうに笑う。
「…そんなんじゃない」
こんなに、好きなのに。
私はもう、溢れる想いを抑えられなかった。
「悠紀のためじゃない」