投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『名のない絵描きの物語』
【その他 恋愛小説】

『名のない絵描きの物語』の最初へ 『名のない絵描きの物語』 3 『名のない絵描きの物語』 5 『名のない絵描きの物語』の最後へ

『名のない絵描きの物語』-4

やはり名前は必要だと思った。
たぶんこの先会う事はないだろうけど、名前は必要だと思った。
「名前…いらないんですか?」
私は不思議でたまらなかった。
もちろん私にも名前がある。
『必要だと思いますか?』
質問を返されてしまった。
私は答えに困ってしまう。
「でも、みんな持ってるし。」
『なら必要なんですね。 どういう名前が良いんでしょうか?』
わからなかった。
答えなんてないんだろうけど。
『もし良ければ付けてくれないですか?僕に名前を。』
突然の申し入れだった。
自然体なのは変わりなかった。
たぶんきっと、欲しいんだろうと思う。 思いたかった。
「私が名前を?」
『はい。もし良ければ、ですが。』
別に断る理由なんてない。
むしろ何故か楽しそうだ。
親でもないのに名前を与える。 少し自分が偉くなった気分だ。
「じゃあ…『タカシ』は? なんかありきたりか… えっとぉ…上の名前の方が良いな… よし、『田中』なんかはどうかな?」
『じゃあ田中という事にしましょう。 僕はこれから田中と名乗ります。』
少しあっけなかった。
軽いもんだなって思った。
『ありがとうございます。 田中は嬉しいです。』
薄い瞳をこちらに向けて、丁寧な言葉つかいで礼を述べた田中さん。
悪い気はしなかった。





僕は名前を持つ事になった。
田中。
田中。
田中。
僕の名前、田中。
何故か少し嬉しかった。
僕は素直に礼を言った。
彼女ははにかんで笑った。





不思議な人だ。
名前がわからなくて、旅をしてる。 絵が上手で、花と話す。
服がボロボロで、何故か似合う。
初めてのタイプの人だな。
私は久しぶりに笑った。
そんな私を見て、田中さんも笑った。
可愛い笑顔だった。
ホントはもっと若いんじゃないかと思った。
考えてもわからないから聞いてみた。

「歳は?いくつなんですか?」
『歳…ですか? そうですね… 20ぐらいではないでしょうか。 詳しい事は田中にはわからないです。』
たぶん、私もそう答えるだろうと思った。
けどそう答えられたのが嬉しくもあった。
「やっぱり。 そう言うと思った。 でも20ぐらいっていうのは何故?」
『なんとなくでしょうか…? 田中がそう思っただけです。』
なんとなく。
田中さんに一番しっくりくる言葉だった。
「なんか、田中さんらしいですね。」
田中さんは少してれていた。
照れてる姿がかわいらしかった。


『名のない絵描きの物語』の最初へ 『名のない絵描きの物語』 3 『名のない絵描きの物語』 5 『名のない絵描きの物語』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前