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『名のない絵描きの物語』
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『名のない絵描きの物語』-2

タンポポは答えてくれた。
こっちを向いて微笑んだ後、太陽に顔を向けて少し眩しそうに、でも楽しそうに見上げた。
そしてまたこっちを向いて、笑顔を見せてくれた。
僕はなるほど。と頷いた。
『僕も気持ちいいよ。今日は天気がいいからね。』
タンポポはまた、笑顔で太陽を向いた。
僕はそれをスケッチブックに写した。

突然、風が強く吹いた。
タンポポもそれに強く揺れた。 けれどもけして不快な感じをみせず、風に揺られて楽しそうだ。
何故だか眠りを誘う音の様。
だから帽子が風に飛んだ事なんて気づかなかった。





突然、ビュウと風が吹いた。
閉じた本がパラパラとめくれる。 麦わら帽子が風に舞う。
私の元へやって来た。
その人はタンポポをジッと見つめてて気づいてないみたい。
その顔がなんか可笑しく、人知れず笑ってしまった。
笑ったのは久々だった。
私は帽子を持って彼の元へと向かった。





影が落ちた。
急に日差しが遮られた。
人の気配が後ろに来た。
僕はゆっくり後ろを向いた。
タンポポが太陽を見た様に。
帽子が差し出されている。 少し迷って受け取った。
キレイな女性の人だった。





絵描きはスッと帽子を受け取った。 スラリと伸びた指がとてもキレイだった。
近くで見るとキレイな顔立ちをしてる。
薄い眼の色が不思議に私を見ていた。 その眼があまりにキレイすぎたから最初の一言目を忘れてたみたいだ。
私は慌てて声をかけた。
「絵、うまいですね。」
ありきたり過ぎる出会い。
陳腐な言葉しか出てこない。
そういえば、人と話すのも久々だ。
すると絵描きはゆっくりと答えた。
『そうですか?僕はわからないんですが…』
特徴的な声だった。
夢で話しかけられたみたいな浮遊感。
「上手ですよ。普通ならこんなに上手に描けないですもん」
ホントにそう思った言葉だ。
私にはこんなに巧く絵を描けない。
『そうなんですか? そうですか…』
何故か不思議そうな顔をする絵描き。
変な人だとは思っていたが、実際なにか掴めない感じがする。
自然と私は質問をしていた。
「この辺のかたなんですか?」
『いいえ。この町に来たのは初めてです。』
「じゃぁ旅行ですか?こんな所に?」
『いえいえ。旅行でもないです』
「じゃあ?」
『旅をしてます。それでたまたま寄りました』

驚いた。
今時、旅をするなんて。
旅行じゃなく旅。
きっとお金持ちの人なのだろう。私は何故か、唐突にそう思った。
お金持ちが、こんな所に、たまたま寄った先で、絵を描きながら、花と話す。
ますますおかしな話だ。
けれど何故か不思議と、きっとそうなんだろうと思わせる。そんななにかを感じとれた。


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