首切り地蔵さん、足そぎ地蔵さん-3
汗で衣服がへばりついて気持悪い。時折吹く風も何故か生暖かく、私の肌を乱暴に撫で、そして消えていく。まるで妖怪か何かに悪戯をされている様だ。
ドスンッ……ドスンッ。
そしてそんな気持悪さ、気味の悪さを、何よりも感じさせることがこれだ。
……ズルズル。
そう、地蔵の前を通ってから今まで、ずっと後ろから音が聞こえてくるのだ。初めは気のせいだと思っていたのだが、どうやら間違いなく後ろで何かの音がしているようだ。
その音は二つ。ドスン、ドスン、となにか重いものが飛び跳ねるような音と、ズルズル、ズルズル、と何かを引きずるような音が聞こえるのだ。いや、もとい音が私の歩く速さに合わせる様に付いて来ている様に感じる。
ドスンッ……ドスンッ。
まさか地蔵が付いてきているのか? 私は頭の中で、首の無い地蔵が飛び跳ね、足の無い地蔵が己の体を引きずっている様子を想像した。
……ズルズル。
それはただの想像の筈なのに、余りにも現実的に感じられた。今私の後ろで私の想像と寸分違わぬ現実が在るかのような錯覚を覚える。
首の無い地蔵がぴょんと跳ね、ドスンと着地。ただ無機質にその動作を繰り返す。首から上がないので、この地蔵がどのような表情で跳び回っているのかはわからないが。
ドスンッ……ドスンッ。
そして足の無い地蔵は、顔面を地面に擦りつけながら、ズルズルと体を引きずり続ける。こちらは下を向いているせいで、やはり表情は分からないが、きっと無機質で慈悲にあふれた地蔵らしい表情をしているに違いない。だが、逆にそれが恐ろしい。
もちろん、それは私の想像に他ならない。実際に地蔵が動くはずが無いのだから。振り返ってみれば、きっとそこには夜の闇だけが広がっているだろう。
……ズルズル。
しかし、本当に私の想像通りの光景が私の後ろに広がっていたら……そう思うと、どうしても振り返ることが出来なかった。
ドスンッ……ドスンッ。
「ははは、そんな馬鹿なことがあるか!」
私は乾いた笑い声をだした。
なに、無理に振り返る必要はない。音が聞こえなくなるまで歩こう。音が聞こえなくなったなら、そこが私の今日の寝床だ。
……ズルズル。
私は頭の中の想像を振り払うかの様に、頭を左右に二、三度振り、できるだけ何も考えないように、ただ歩くことだけを考えるように、とにかく先を急いだ。
後ろからの音はまだまだ続いている……。