恋におちるとき-2
「ふーん」と生半可な返事をしながら前に向き直した俺は、少し優越感に浸りながら鼻炎持ちの鼻をすするのだった。
「梶くん、ばいばい」
「おー」
綺麗な黒髪を揺らしながら横を過ぎて行く。
そんな伊勢さんに何人かは思わず振り返る。
後輩なんかには特に人気だ。
青空の広がる空の下、木々が右から左へと穏やかに揺れていた。
「梶〜腹減った」
「あぁ?」
ある日の六時間目だった。
俺の後ろでうなだれるニッタに呆れながら、鞄の中をあさる。
仕方なしに購買で買ったハイチュウを差し出す。
「さんきゅー梶!」
「あ、梶!俺もくれ!」
「梶くん私も〜!」
すでにムードメーカー的存在になっていた俺とニッタの周りに人が集まる。
LHRの時間だったこともあり、教室内は一気騒がしくなった。
そんな中、1人席でうつむく伊勢さんが目に入った。
それを見た俺は、周りが最近出たハイチュウの種類だとかを話し合ってる中を器用に抜ける。
「大丈夫?」
机の前にしゃがみ込み、顔を覗き込むようにそう尋ねた。
「あ…うん、大丈夫」
「大丈夫じゃなさそうだけど…」
「大丈夫、気にしないで」
頼りなさそうに笑う伊勢さんの顔は白くて、でもひどく綺麗だった。
俺は最後の一つのハイチュウを机の上に置いた。
「無理すんなよ?」
「ありがとう」
俺が人だかりの中へ戻ると同時に、伊勢さんの様子に気づいた女友達が駆け寄って行った。
友達に囲まれつつ、伊勢さんは机に置いたハイチュウをそっと手に取っていた。
それを確認すると何故か安心した…。