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針のない時計
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針のない時計-4

家に帰り着くと早速弁当作りを開始する。
「卵わる?コロッケ揚げる?春巻き?ああっ!!ウインナー忘れた!!」
「うるさいっ!!黙って、指示するから」
私、手にしていたかぼちゃの角でハルの頭を叩いた。
「ったー…だってウインナー…」
「はい、買ってくれば?」
ハルに財布を渡し、背中を押した。
「うん、パリパリのやつ買ってこよう…」
ー……っっ!!
「待って、いい、私が行く」
靴を履きかけたハルを引き戻す。
「え?いいよ…何で?」
「え……あ…いや…」
「咲?」
「………ぃ…」
「え?」
「いや…ハルに任せると色々と余計な物まで買うからっ」
「大丈夫だよ〜いいからっ行ってきまーす!!」
私の体を押しのけて、ハルはバタバタと出て行った。
「ちょっ…ハルっ…」
バタンっ
すでに私の声はハルには伝わらない。
「お前さ…人送り出すの極端に嫌うよな」
野菜を洗いながら瓜生が言った。
「えっ…そ…そうかな…」
ー……

…たまに瓜生が怖い…
どうしてこんなに分かってしまうのか、どうしてそんなに優しく踏み込んでくるのか、どうして…

私は冷静を装いながら瓜生の隣に立った。
だけど、そんな私の何気ないウソも全て見透かされているように思う。
いや…もしかしたら、気づいてほしいのかもしれない…もう…許されたいのかもしれない…
けれど許せない。
私が一番、私を憎んでいるから。

ハチャメチャだったけど、ようやく出来上がった弁当は大量で、使い捨ての弁当箱6個になってまった。
その内の一つは蝶子さんへのおすそ分け…
「さっこちゃーん、ちらし寿司持って来たんだけど…雨降り出したわよ〜」
「え?!」
蝶子さんがお寿司を片手にやって来て、蝶子さんの言葉に私とハルがベランダへ掛け出た。
ー…あ…
「ああっ!!マジだ、雨だー…」
ハル頭を抱える。
ー寒…
そして私の体が固まっていく…
「やん、私のお弁当まであるの?いいの?ありがとう、じゃあ、私お店行かなきゃ、また何かあったら誘ってね」
そう言って蝶子さんは、自分が持ってきたお寿司と私達が作った弁当を取り替えて帰って行った。
「咲、雨女なんじゃない?」
結局、家の中で花見(?)をすることになり、大量の弁当をテーブルに並べながらハルが言った。
ー…え…
「…あんたでしょ、雨男っ」
私、持っていた梅酒とビールのカンをハルの頭に押し付けた。
「ええ〜…」
「ハルに会った日も雨だったよね」
「あれ雨っていうよりあられだろ?」

あの日も寒かった。成人式の帰りだろう格好でコンビニの前に座り込んでいたハル…
一晩だけ…そのつもりだったのに、一年以上経ってしまった。
あの日、ハルに何があったのか、私達は知らない…
聞くつもりはないけど、ふと思うことがある。このままでいいのだろうか…?
だってどう見てもあれは家出だ。


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