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針のない時計
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針のない時計-3

「ん、んまい…」
「ったく…で?ハルは?オーダー」
「んっ…じゃあ梅酒サワーとチーズドリア…」
瓜生を見送るハルの目にイラついてリゾットをもう一口押し込んでやった。
「おいし…咲、今日は食欲不信?最近調子良かったのにね」
「…ねぇ…去年の約束覚えてる?」
ハルの話を流しながらまた、ハルの口へとリゾットを押し込んだ。
「…?約束…?」
「あ〜…別に覚えてないならいいんだけど」
ー覚えてるわけないか…
「花見?」
!!ー
瓜生、梅酒サワーをハルの前に置きながらそう言って去っていく…
ー…ポイント押さえてるよな〜…瓜生って…
「ああ、花見ね、うん行こ行こ!!去年みんなで弁当作ったのに雨降って、結局家で食べたんだよね」
「うん…」
「またみんなで弁当作ろうよ」
「うん…」

本当は桜が苦手、あの花びらが舞う様は、雪が舞う、その様とデジャブする…

救われたくないのに、救いを求めて二人にすがる私の姿は、滑稽で笑いがでる。
だから私は憧れる。
感情のない虫達に…

「卵焼きは外せないだろ」
瓜生は甘い卵焼きが好きだ。
「唐揚げ!!絶対唐揚げっあとエビフライに〜春巻きとコロッケ…あと…」
ーう…
「ハル、やめてっその油ものパレード…」
今日は突然決まった花見。まだ五分咲きで花見客の少ないうちにやっちゃおうって事になった。
買い出し前に弁当のメニュー決め。
「はい、メニュー決まりっ、卵焼き・唐揚げ・アスパラのベーコン巻き・かぼちゃのサラダ・鮭以上!!」
「ええー!!エビフライは?春巻きは?コロッケは〜〜??」
ハル、私の腕にすがりつく。
「ああっ!!もうっうるさい!!冷食のコロッケ入れるから揺らすなばかっ」
なんて言いながら、スーパーの冷食コーナーでコロッケと春巻きまで買ってしまう自分にちょっと腹が立つ…

「何か雲行き怪しくない?」
三階の部屋へ続く階段を登りながら瓜生が立ち止まって言った。
「雨さえ降らなきゃ大丈夫じゃない?」
つられて私も立ち止まる。
「だね。けど夜の外は寒いかもね」
ビクッー…
ハルの言葉に私の体が一瞬固くなった。
ー…寒い…そうかも…
「あら?何してるの?買いだめ?」
お隣の蝶子さん。ニューハーフバーに勤めているニューハーフ…いや…『あれ』があるかどうかは不明だけど…
「蝶子さんっ今日ね〜花見するから買い出し」
ハルは両手に持ってる荷を掲げて見せた。
「蝶子さんも来ない?花見」
私、ハルの言葉に続けて言った。
ホッとするから。蝶子さんが居てくれたら乱されずに済むような気がする…
「ええっ!?今日?今日なの?やだ〜…夜でしょう?お店あるもの」
「だよね…」
ー…だよね…
「あん、でもちらし寿司作って届けるわ、じゃ、私も買い物行ってくる」
スラリと伸びた手足で小さな顔、ストレートのさらさらな髪、お店でNo.1も頷ける。


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