針のない時計-13
「行こう」
「?…どこに」
「咲の実家」
「…はい?」
「結婚するだろ?俺と」
「は?何言ってんの?断ったでしょうさっき」
「でも俺のこと好きだろ?」
ーうっ…
「だろ?」
「ぅ………うん…」
…認めた瞬間、止まっていた時計が音を立てて動き出した…気がした…
「…だから言ったろ、最後に笑うのは俺だ…って」
歩き出した瓜生の大きな背中が、涙でぼやけて見えた。
1月とは思えない暖かな日差し…
温暖化…なんて騒がれてるけど、私は、龍が私の時計を進めてくれたんだと思った。龍が、私を許してくれたんだと…
それから本当に私の実家へ来た瓜生、突然の訪問に慌てる両親、だけど、父も母も涙を見せた。
この時、私は初めて知った…苦しかったのは、辛かったのは自分だけではなかったことに…父も母もきっと、ずっと苦しんでいたんだ。
泣いてる私たちを見て、瓜生が…
「俺は、両親が…家族がいないので、家族ってよくわかりません…ただ…咲子さんといると自分が幸せだと思えるんです」
そう言って涙を流した。
私達は涙を拭きながらお寿司を頼み、笑いながらお寿司を食べた。
それから一年後、私達は家族になった。瓜生がどうしてもと譲らず、私の両親と同居となり、瓜生は婿養子に入った…
ハルとは連絡が取れずにいる。だけど、もう大丈夫なような気がする…どこかで頑張っているだろう…‘ハル’ではなく、‘健吾’として。
結婚して分かったことがある。
「…瓜生…また泣いてんの?」
「ああ?泣けるだろ?」
「……いえ…全然…」
そう、瓜生はものすごく涙もろい人間だった…
何でもない動物番組でも、旅番組でも、私の手料理でさえ涙する。
「でも、あの頃って泣いたと事なんて見たことなかったのに…」
呆れたように私が言うと
「…かっこつけてたからな、咲に好かれる為に…」
ーうっ…かわいい…
「ん?かわいいとか思ったろ、今」
そして、相変わらず人を見透かすのが得意技…
「……エスパーみたい」
私の言葉に笑顔でキスをした瓜生…そのキスは、やっぱり暖かくて優しい…
今、私の時間はゆっくりと進んでいる…これから先もきっと、瓜生と共に進んでいくだろう…
秒針の音を優しく響かせながら…