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針のない時計
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針のない時計-12

「結婚しよう」
瓜生、龍のお墓に手を合わせた後、ゆっくり言葉をはいた。
ー……
「は?」
私はまだ混乱したままの頭で、理解しようとする…
「大丈夫、就職先は決まってるし後は国家試験さえパスすればいいから」
「…国家…試験…?…」
「勉強しすぎで頭おかしくなるかとおもったよ…理学療法士」
日差しとアンバランスな冷たい風が吹き付ける。
ー…何…言ってんの…
「返事は?」
「はい?」
「プロポーズの」
「は?ないない、しないしない、結婚しない」
ダメだ混乱がおさまらない。
「…咲子さん…」
!!
その時、私の前に立った一人の女性、それは龍のお母さん…
「あ…」
「今までごめんなさい…」
そして、私に深々と頭を下げた。
「あの…」
「…ごめんなさい…」
「やめてください、悪いのは私です」
「違うわ、誰のせいでもなかったのよ…あれは…本当にごめんなさい…」
龍のお母さんは、また深く頭を下げる。
「私のせいです」
「違うわ…あの時は責めずにはいられなかったけど…こんなに長くあなたを苦しめるなんて…本当にごめんなさい…通夜にも葬儀にも出してあげずに…私はあなたの時間を全て奪ってしまった……」
ー……
「私は自分が楽になりたかっただけなのよ…その為にあなたを責めたの」
「……」
「荒れて、暴走族にまで入ったあの子のことも、親らしいことを何もしてあげていない自分のことも…全てあなたを責めることであなたに押し付けたの…あなたがいたから暴走族もやめたって事…知ってたのにね…」
「…でも…でもやっぱり私のせいです…」
「…昨日ね…小畑さんが家に来て、あなたの…咲子さんのこれからの時間を僕に下さいって、私に頭を下げたのよ…」
ーえ…瓜生が…
私、瓜生をチラリと見た。瓜生は聞いているのか聞いていないのか、空を見上げて煙草をふかしている…
「小畑さんの話を聞きながら、龍に怒られてるような気がしたの…そしてようやく気づいたの…自分がどれだけ酷いことをしたのか…遅すぎたけれど…あなたに謝りたくて…」
龍のお母さんは涙を流し始めた。
「…私…」
私は言葉を失う。
「…本当にごめんなさい…」
そして、私の目からも涙が落ちた。
「…私…私が悪いんです…私が…ごめんなさい…ごめんなさい…」
何度も頭を下げる私を、龍のお母さんは抱きしめてくれて
「…仏壇にお参り…してくれる?…」
耳元で優しく囁いてくれた。
「……はい…」
ようやく絞り出した声は小さすぎて、届いていなかったかもしれない。
優しく抱き締めてくれた胸は、龍と同じ匂いがした。


いつか瓜生に言われたことがある。タバコをマズそうに吸うよなって…
その通り、私はタバコが嫌いだ。私は龍の事を、自分の罪を忘れないために龍と同じタバコを吸っていたのだ。
私は開けたばかりだったタバコの箱を、龍の仏壇へ置いてきた。
龍の家を出ると、瓜生が私の手をとって言った。


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