恐るべき子供-8
ー夕方ー
[センセイ……まだ…足に力入んないよぉ]
帰り道、クルマの中で美奈はそう言った。
[大丈夫だよ。しばらくすれば直るから……それより自宅には?誰か居るか]
美奈は前方を見ながらにっこり微笑むと、
[この時間なら……お母さん買物だし、お父さんゴルフの打ちっぱなしだから居ないよ]
[そうか……]
クルマは美奈の自宅近くの路地に停まった。美奈が助手席のドアーを開けようとした時、蔵野は思い出したかのように美奈に渡した。
淡いピンクのルージュだった。
[美奈……次からはそれをつけて来い。二人で会う時、オマエは……]
美奈は黙って次の言葉を待った。
[…オレの女だ……]
そう言った蔵野は美奈を降ろすと、クルマを走らせた。
遠ざかる蔵野のクルマを美奈はしばらく見ていた。その顔は先ほどまで見せていた幼いモノでなく、妖艶さを醸し出していた。
"センセイ…気づか無かったんだね……私があの日、トイレでオナってた理由を……アレはセンセイがトイレに入るのを見たから……"
黄昏の太陽は鮮やかに美奈を映し出していた……
…[恐るべき子供 完]…