恐るべき子供-2
ーある日の朝ー
垂れ込めた鉛色の雲は今にも泣き出そうとしている。気温の高さもあってか、不快さを際立たせる。
その日は毎月の学年集会の日だった。普段は広く思われる体育館だが、数百人が集まれば狭さを感じさせる。大人の蔵野でさえ苦痛に感じていた。
その時だ!"バタッ"という音が蔵野の耳に飛び込む。彼が音の方を向くと、自身の生徒が倒れているではないか。彼は慌てて子供のそばに近寄った。床に伏しているのは美奈だった。
[竹野……]
蔵野は彼女の肩に軽く触れて名前を呼んだ。美奈はゆっくりと蔵野に顔を向ける。その反応から意識はあるが、その顔には生気が無かった。
蔵野は彼女を抱えると、体育館から保健室へと向かった……
[軽い貧血ね……しばらく寝かせて回復しないなら病院に連れて行ったほうがいいわね]
蔵野は美奈を保健室に連れて行くと、保健婦の田中は彼女の症状を診てそう言うと、
[蔵野先生。私、集会に戻りますから見ててもらえます?あと20分くらいでしょうから]
田中はそう言うと保健室を後にした。
残された蔵野と美奈。ベッドに横たわり、無造作に乱れてる髪の毛。ブランケット越しに彼女の身体のディテールが露になる。
"なんて事を考えてるんだオレは!この娘は苦しんでいるのに"
蔵野は心の中で葛藤していた。しかし、そう考えるほどに彼の目は彼女を捉えて離さなかった。
[う……ンッ…]
呟くようなうめき声を漏らして美奈は目を覚ました。状況が把握出来ないのか、身体を起こすと周りをキョロキョロと眺める。それを見た蔵野は言った。
[大丈夫か?……オマエは集会で倒れて保健室に運ばれたんだよ]
美奈は蔵野の話を頭の中で反芻しているのか、しばらく黙っていたが、やがて蔵野に微笑むと、
[ごめんなさい……センセイに迷惑かけて]
蔵野も柔和な表情で答える。
[そんな事は心配するな。それより、もう大丈夫なのか?]
[うん……まだ、お腹が…]
そう言うと美奈はお腹を押さえる。それを見た蔵野は慌てた様子で、
[そりゃ、イカンな。保健の先生…]
美奈は蔵野の言葉を制すると、
[待って、大丈夫!しばらくすれば治まるから…]
[…しかし……]
つらそうに美奈はお腹を押さえ、蔵野を上目づかいに見つめながら、
[…センセイ……お腹…さすって…]
彼女はベッドに倒れて蔵野に言った。