刃に心《第21話・一戦去って、また一戦》-5
「……負けない…」
「それは私の台詞だ!」
「お手柔らかに♪」
ピンポ〜ン。
疾風は嫌な予感がした。こういう感覚をデジャヴ、または既視感と言う。
疾風はまた玄関に向かった。
「…どちら様ですか?」
心なしか疲れたように問い掛ける。
「あ、アタシなんだけど…」
扉を開くとそこには千夜子。
「わ、悪いな。ちょっと頼みがあって…」
疾風はガックリと項垂れた。
「…先輩…もしかして温泉ですか?」
「えっ?知ってたのか?や、やっぱりアタシと疾風は…う、運命の赤い糸で…ゴニョゴニョ…♪」
「上がってください…」
ああ、またややこしくなるんだろうな…
根本的な理由は判らずとも、これから先どうなるかは容易に想像できた。
◇◆◇◆◇◆◇
結論から言えば、疾風の予想は的中した。
「はぁ…」
疾風は自室の扉を見上げて最早、何度目かも判らない溜め息を吐いた。
現在、疾風は部屋の主にも関わらず、廊下に出されていた。
現在、部屋の中では楓、朧、刃梛枷、千夜子の四人による緊急会議が開かれている。
扉一枚隔てた向こう側から、ピリピリとした殺気が溢れ出していた。
今、日本で一番危険なのは自分の部屋なのではないか、と思う程である。
「寝てれば良かったかな…」
あの時、起きずに寝ていれば、今頃自分は幸せな時間を過ごしていたはずだし、枕も布団も天に召されることもなかったはずだ。
しかし、過ぎ去った時は幾ら嘆こうと戻りはしない。
疾風は扉に向かい合って廊下に座り込んだ。
朧から借りたチラシに視線を走らせる。
「えっと…日時は明日。種目は…サバゲー?」
これまた何と言うか…
疾風はそんなことを思いながら、視線を次の項目に向ける。
「優勝者への副賞は温泉…
何も俺に言わなくてもなぁ…みんな、何で俺に頼むんだろ?」
疾風は不思議そうに天を仰いだ。疾風には、扉の向こう側で何故あんなにも熱心に争っているのか判らない。
幾ら考えても結論は出ないので、再びチラシに視線を戻す。
「…で、参加資格は一般人以外。かなりアバウトな…ん?」
疾風の視線が止まった。