無糖コーヒーと無機質なケータイ-4
来た道を戻る。
降りだった道は上り坂になり、上りだった道は降り坂になった。
自転車は私の一部みたいにすごい速さで進んでく。
もうすぐ梅雨だと言うのに、カラカラに乾いた道だった。
無糖コーヒーが飲みたいと思った。
口の中が苦味で満たされたびに、俺は兄貴を思い出した。
不意にケータイが鳴った。
親からだった。
『もしもし?…うん、さっきついた。 えっ?…うん、うん。 わかってる。明日には戻るから…うん。 大丈夫だよ。
俺には兄貴がついてるから…
…うん。じゃね。 ん、じゃ』
俺には兄貴がついてるから。
苦いコーヒーをまたすすった。
兄貴はやっぱり、笑っていた。
家につくとケイジが来ていた。
なんで来たの?って聞くと、心配だからって言ってきた。
私はなにも言わず部屋に戻った。
母さんの顔はまだ思い出せないでいた。
「アコぉ?いるのかぁ?入るぞぉ?」
ケイジがなにかを持って入ってきた。
季節外れのホットコーヒーだった。
ケイジの顔の前に立つ湯気は、なんだか母さんの様な気がした。
ケイジはコーヒーをすする。
私もコーヒーをすする。
熱かった。
『ありがと。父さん。』
父さんと呼んだのは久しぶりだった。
口のなかに広がる苦味。
やっぱり砂糖は入ってなかった。