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無糖コーヒーと無機質なケータイ
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無糖コーヒーと無機質なケータイ-2

気がつくと、この町に来てた。
兄貴が死んだ場所。
俺が殺した兄貴の死んだ場所。
なんとなく、涙が流れた様だった。





自転車を漕ぐ足に力をこめる。 坂道は病気持ちの肺にはキツイ。
ケイジはそんな事も考えて自転車を選んだのだろうか。

海についた。
なんとなく見ときたかった。
これから過ごす1ヶ月を、私はこの海と共にすごす。
不思議と心が穏やかになった。
気がつくと私は空に、海に、地平線に
ない力を絞り叫んでいた。
雲ひとつない昼前の事だった。
『うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』





涙が止まらなかった。
兄貴が死んだからとか、そんなんじゃない。
何故か涙が止まらなかった。
目の前には青すぎる海。
心が心で、なくなっていった。
俺は人ではなくなったのだと、唐突に理解した。
この美しい海になにも思わなくなったのだから。





いくぶん心が落ち着いた。
ケイジの気持ち悪い顔も、消えていた。

ちょうどいいから、散歩しよう。
この町を知っておきたい。
私が大きくなったら子供に話すの。
私はこの町で育ったのよって。

それまで生きてられたらの話だけど。





兄貴が死んだんだ。
俺の兄貴が、死んだんだ。
信じられるはずないだろ?
死ねと思った事はあるけど、本当に死ぬなんて。
兄貴は最後、機械みたいに冷たくなってた。
髭の剃り跡が、やけに身体を無機質に見せた。





無機質な玩具が鳴り響く。 これもケイジが持たせたものだ。
今どき持ってない人間がいないのは知っていた。
けど私はこの無機質な人との繋がりが大嫌いだった。
人が機械の様に思えるから。

メールが来たみたいだった。
さんざんケイジに教わったやり方でメールを開く。
ケイジからだった。
『1日目の朝はどうだ? 寂しくなったら父さんに連絡してくるだぞ 啓二』
あえて返信はしない。
つけあがるから。
それにしても、ケイジってこんな字だっけ?

青い海はリズムよく波の音を刻んでいた。


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