メイプルハニー-4
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翌日、アタシは鼻歌もなく学校に向かっていた。
昨夜は頑張ってクマノミにメールを打った。
バイトお疲れ様、なんて工夫がないメールだったけど、送信する時は心臓がバクバクしていた。
クマノミから返信された時はもっとドキドキして、メールを読みながらなんか涙まで出る始末。
アタシは、あんなに弱かったのかな。でも、それでも良い気もする。
クマノミの事を考えてドキドキして、不安になったり嬉しくて泣いたり、そんな風に生きられるのは幸せだもん。
アタシはクマノミと居ると楽しい。でも、どうしてこんなに好きなのかは解んない。恋した理由だって訳解んないんだし。
だけどきっと、クマノミもそうなんだ。
よく解らないけど話したくて触れ合いたくて、だから付き合い始めたんだよね。
アタシは、何ムツカシく考えてたんだろ。滝田先生が云うみたいに、アタシにもきっと良いトコはあるんだ。
だから、クマノミはアタシを好きって云ったんだ。
笑うと目が細くなるとか、ただそれだけでも人によっては良い所になるんだしね。
うん、そうだ。
とにかく行動あるのみ、それがアタシだし。
アタシは秋の高い青空を見上げて、そう誓う。
「鳥でも居んのか?」
見上げるアタシの後ろからは、クマノミの声。いつもの声。いつもの笑顔。
アタシはいつものように、どきっとした。
「ううん。綺麗だったから」
「コケるぞ」
クマノミはそう云ってアタシに手を伸ばしてくれた。
ぎゅっと掴むと、クマノミは笑う。
「なあ高崎。さ来週の日曜休み取ったから、出かけないか?」
「えっ、うん、嬉しい!どこに行く?」
「最近さ、面白いアイス屋が近くにオープンしたんだ。冷えた石の上で混ぜたりするやつ。旨そうだったから、お前と行きたいと思って」
ああ、神様。アタシ、空を見上げた甲斐がありました。
「うそ、アタシも行きたかったんだよ」
「へえ。気が合うな」
「そうだね」
ねえ。アタシ、クマノミがアタシを何で好きかはまだよく解んないんだ。
でももしかしたら、美味しいよって差し出したアイスを美味しいね、って食べてくれる―――そんな小さい、嬉しい事の積み重ねが、好きって気持ちをクッキリさせてくれるのかも。
「楽しみだねー。あそこ、店員さんが歌を歌うんだよね」
「お前、店員さんと一緒に平気で歌いそうだな」
クマノミはちょっと苦い顔をして笑った。
そんな苦い顔したって駄目だよ。アイスはきっと、びっくりする程甘いから。
アタシは繋いだ手に力を入れて、また空を見上げた。
綺麗なブルーが眩しくて、アタシは目を細めた。