メイプルハニー-3
「すいません。でも、本当って事ですよね?」
「確かに僕の彼女はここの生徒だったし、可愛い。ただ、僕らの付き合いは真面目な―――!」
「そんなムキになると余計怪しいですよ。でも、アタシの悩みもまさにそこなんです!」
「はあ?」
滝田先生は目を丸くした。
「先生って、フツーじゃないですか。イケメンで背が190センチ近くて外車乗り回してるとか、親の土地に建ってるマンションに家賃なしで住んでるとか、派手な特徴ないし」
「そんな教師は滅多に居ないと思うが」
「良いんです。とにかく、そんな格好良くもないし目立ちもしないフツーの先生に、何で可愛い彼女が居るのかって事です!」
アタシが力強く云うと、滝田先生はポリポリと頭を掻いた。
「ええと。別に僕の彼女はハリウッドスターとかじゃないから、そんな派手な特徴は僕には必要ないと思うよ」
「でも先生モテたりしないじゃないですか。なのに何故ですか」
あくまで冷静に返す先生にアタシは食い下がる。
「それは僕も彼女に訊いたけどな、確かに。ただまあ、僕みたいな凡庸な人間にも良い所はあるって事だよ」
「そんなぼんやりした答えじゃ解りません。フツーって、不安じゃないですか」
そうだよ、はっきりさせなくちゃ。
「うーん、あのね高崎。それは君がちゃんと熊埜御堂に訊いた方が良いと思うけど」
「へ?」
先生の意見に、アタシはポカンとしてしまった。
今のアタシの表情は、きっと馬鹿みたいだろう。
「君は熊埜御堂が、君の何処を好きなのか知りたいんだろ?悩みって、そういう事だろう。普通の自分の、何処が良いのか、って」
「ああ」
ああ、そっか。そうだよ。だからアタシは不安で心配なんだ。
あんなに冷たく接してきてたクマノミが、アタシの何が良いのか解らないから。
だから隣に居るのに、凄い遠く感じるんだ。
「そっか。先生凄いですね。って云うか、何でクマノミとアタシの事知ってるんですか?」
「手繋いで歩いてたからね」
先生のきっぱりした答えに、アタシはつい赤くなる。
「見ないで下さいよ!」
「いやだって、見えたから。仲良さげで微笑ましかったよ」
先生は笑って、鍵をかけた窓にカーテンをひいた。夕陽が遠くなる。
「先生、笑うと目がなくなりますね」
アタシは照れ隠しに話題を逸らす。意外に先生はこの話題が気に入ったのか、ご機嫌な声で云った。
「ああ。これが僕の良い所の一つなんだよ」