メイプルハニー-2
*
「はあ」
ああ、やっぱり寂しい。帰りのホームルームが長引いちゃったもんだから、クマノミはバイトの為にさっさと帰ってしまった。
こんなのは、出会ってから今までもたくさんあった筈なのに。
今までなら、ばいばいクマノミまた明日ね、バイト頑張れって笑顔でいられた。
横に居られる彼女になった方が、なんで寂しいんだろう。
朝はクマノミはアタシの事好きだ、って自信満々だったのに夕方にはすっかり自信がなくなるって。何コレ、ほんと嫌んなる。
今のアタシはうじうじとメールも送れずに、放課後の教室でぼんやりしているだけだし。
元気なのが取り柄なのに、クマノミに会ってからは元気さえ失う事が多いみたい。
クマノミのする事で幸せになったり不安になったり、アタシの気持ちは絶叫マシーン並に激しくクルクルしてる。
「はあ」
「どうした、高崎」
「ひぃッ!」
アタシの切ない溜め息に応えるように声がして、アタシは思わず変な声を出してしまった。
「そんなに驚かれても困るけどな。下校の時間だぞ」
そう云ったのは、アタシのクラスの副担任の滝田先生だった。
ちょっとクマノミに雰囲気が似てるんだよね。眼鏡してるし。
だから、別に好きって訳じゃないけど少し気にしてた。フルネームは滝田慎一郎って云う筈。
どうやら見回りに来たみたい。
「すいません。悩んでたもんですから」
「ふぅん。熊埜御堂のこと?」
滝田先生はあっさりと核心を突いてから、窓の鍵をかけ始めた。
「そんなはっきり云われても」
「君、いつも追いかけてたじゃないか」
順調に鍵をかけながら先生はそう云う。
そうよ、追いかけてたよ。
猪呼ばわりまでされるくらい追いかけて追いかけて、やっと追いついたら―――そこは幸せだけの世界じゃなかった。
付き合ったらバラ色で甘い世界になると思ってたのに、独占欲とか寂しさとか、そんなのでアタシはぐちゃぐちゃ。
そんな気持ちを抱えて先生を見てたら、ふいに先生に関する噂を思い出した。
「あ」
「どうした?」
「先生、元生徒の可愛い彼女が居るんですよね!?」
ごん。
鈍い音がした。そりゃそうか、先生が窓に頭を打ちつけたんだから。
「大丈夫ですか!?」
「高崎。君ね、いきなり人を動揺させる事を云わないように」
額を撫でながら、先生は恨みがましい顔でアタシを見る。どうやら噂は本当みたい。