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メイプルハニー
【青春 恋愛小説】

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メイプルハニー-2



「はあ」

ああ、やっぱり寂しい。帰りのホームルームが長引いちゃったもんだから、クマノミはバイトの為にさっさと帰ってしまった。

こんなのは、出会ってから今までもたくさんあった筈なのに。

今までなら、ばいばいクマノミまた明日ね、バイト頑張れって笑顔でいられた。

横に居られる彼女になった方が、なんで寂しいんだろう。

朝はクマノミはアタシの事好きだ、って自信満々だったのに夕方にはすっかり自信がなくなるって。何コレ、ほんと嫌んなる。

今のアタシはうじうじとメールも送れずに、放課後の教室でぼんやりしているだけだし。

元気なのが取り柄なのに、クマノミに会ってからは元気さえ失う事が多いみたい。

クマノミのする事で幸せになったり不安になったり、アタシの気持ちは絶叫マシーン並に激しくクルクルしてる。

「はあ」
「どうした、高崎」
「ひぃッ!」

アタシの切ない溜め息に応えるように声がして、アタシは思わず変な声を出してしまった。

「そんなに驚かれても困るけどな。下校の時間だぞ」

そう云ったのは、アタシのクラスの副担任の滝田先生だった。

ちょっとクマノミに雰囲気が似てるんだよね。眼鏡してるし。

だから、別に好きって訳じゃないけど少し気にしてた。フルネームは滝田慎一郎って云う筈。

どうやら見回りに来たみたい。

「すいません。悩んでたもんですから」
「ふぅん。熊埜御堂のこと?」

滝田先生はあっさりと核心を突いてから、窓の鍵をかけ始めた。

「そんなはっきり云われても」
「君、いつも追いかけてたじゃないか」

順調に鍵をかけながら先生はそう云う。

そうよ、追いかけてたよ。

猪呼ばわりまでされるくらい追いかけて追いかけて、やっと追いついたら―――そこは幸せだけの世界じゃなかった。

付き合ったらバラ色で甘い世界になると思ってたのに、独占欲とか寂しさとか、そんなのでアタシはぐちゃぐちゃ。

そんな気持ちを抱えて先生を見てたら、ふいに先生に関する噂を思い出した。

「あ」
「どうした?」
「先生、元生徒の可愛い彼女が居るんですよね!?」

ごん。

鈍い音がした。そりゃそうか、先生が窓に頭を打ちつけたんだから。

「大丈夫ですか!?」
「高崎。君ね、いきなり人を動揺させる事を云わないように」

額を撫でながら、先生は恨みがましい顔でアタシを見る。どうやら噂は本当みたい。


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