秘密〜哉嗣の想い〜-5
5 秘密
〜哉嗣の想い〜
少し楽になったのか、再び質問される。
「あ、すいません。人を迎えに来たんですが、・・・哉嗣と言います」
「はい、で?誰を探してるの?今の時間じゃ、帰ってるんじゃないかな?」
少し気だるそうにはなしている。
「まだ、帰ってなくて」
「妹さん?」
「いえ・・・」
言って良いものか、迷う。
「一応、・・婚約者です」
「へぇ」
面白そうな視線を向けられる。
「婚約者ー・・ねぇ。で、誰?名前聞かないと、放送できないよ」
あぁ、と気付く。
放送という手があったか。
「妃 菖。わかりますか?」
と尋ねると、男の先生は驚いた様に俺を見た。
「・・・妃?」
「はい。放送して頂けますか」
「ー・・妃なら、多分・・・音楽室にいると思う」
「え?」
「そこの階段上って、すぐ。」
す、と端にある階段を指して言った。
「じゃあ、俺も職員室行かなきゃ」
それじゃ、と手を振られる。
「え?あ、ありがとうございます。体に気を付けて」
男の先生は苦笑したように笑い、去っていった。
ー何だったのだろう?ま、とりあえず場所が分かれば良いか。
単純にそう思いながら、教えられた方へ行く。
ー・・・躰、大丈夫なのだろうか。あの様子じゃ、相当悪いだろう。素人でも分かる。
「名前、聞いとけば良かったな」
まぁ、またどこかで会えるだろう。 そんな気がする。
「音楽室・・、あった」
階段を上りあがって、本当にすぐそこにあった。
「鍵かかってんじゃないよな?」
かちゃ。扉が開く。と、そこには少女が蹲っていた。
「菖?」
違うかも知れないが、後ろ姿がにていたのでつい、そう呼び掛けてしまった。
呼び掛けられた少女がびくっと震える。
「・・哉嗣さん?何で・・・」
振り返り、驚いたように俺を見た。
「何でって、菖の帰りが遅いから」
そこで、ふと気付く。
「・・って、泣いてたのか?」
目が赤い。
菖の近くに座り込み、瞳に触れた。
「っ!!」
逃げようとしたところを、反射的に抱き締めてしまう。
「やっ、哉嗣さんっ」
「何で泣いてた?」
抱き締めてしまった後悔より先に、言葉が出る。
「っ別に、貴方に関係無いでしょうっ」
その言葉に少し傷付きながらも、腕は放さない。
「有るよ。俺は、君の兄で婚約者だ」
『兄』という言葉で、己の気持を抑える。
だが、やはり声は少しきつ目になってしまった。
「・・っぅ。っあ、ふっ」
菖の瞳に涙が浮かぶ。
「菖・・・?」
気持を抑えるために、敢えて優しく話しかける。
「どうした?何があった?」
「・・っぅあ」
更に涙が流れる。
「菖・・・」
その姿が愛しく、腕に力を込めてしまった。
「何?何で泣いてんの?何があった?」
「っ何でも、ないっ」
縛り出すような声で、首を横に振りながら否定してくる。