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遥か、カナタ。〜FILE−1〜
【コメディ その他小説】

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遥か、カナタ。〜FILE−1〜-5

「さて、ご苦労だったな」
校門の前で、パトカーが走り去るのを見送ってから、秋山会長はそう言った。
どこで騒ぎを聞き付けたのか、秋山以下、副会長兼財務担当佐々塚楓、風紀担当工藤祐作が現場に駆け付けたのは、僕が一通りの『制裁』を加えたあとだった。
「奏太くん、ホントに怪我してないの?」
楓さん…あなたのその優しい言葉だけで僕は生きていけます…。
どうやら、男は薬物中毒者だったようで、最近この辺りで出没するようになったのを警察もマークしていたらしい。
「いやぁ、それでいきなり壁に『自分から』顔を壁に打ち付けたりしたんですかぁ」
成る程成る程。あはははは。
…多分、大丈夫だろう。
「奏太、表彰されるかもな」
祐作は少しだけ悔しそうな顔を見せた。それはそうだろう。もともと厄介事は彼の担当だ。それを感謝状つきで後輩が解決したとならば彼のメンツは丸つぶれ、とまではいかないだろうが、風紀担当としてのアイデンティティが希薄になってしまうかもしれない。ただ、校舎外での事件のことなので、風紀の範囲外とも言えるが。
「…秋山さんの標語、なんだかんだで通して正解でしたね」
僕は秋山の方は見なかった。まさかこんな形で『変質者に気をつけよう』を肯定する羽目になろうとは…。
「当然だ。近隣のリスクファクターの把握くらい出来ていなくてどうする」
秋山さんは鼻を鳴らしたが、満更でもなさそうだ。
「ところで、水戸川?」
「はい?」
僕は反射的に秋山さんを振り返った。何故か嫌な予感が僕の脳裏を過ぎったのだ。
「指輪は見つかったのか?」
ギク。
「ははは…それが…まだ…」
「そうか、まだか」
秋山さんはにやりと笑って僕の肩をポンと叩いた。悪寒が僕の背を走る。
「頑張れよ。宿直の森先生には話は通しておく」
僕は、このときほど意識を手放したかったことはない。


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