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遥か、カナタ。〜FILE−1〜
【コメディ その他小説】

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遥か、カナタ。〜FILE−1〜-2

紛失日時:7/5

昨日だ。

生徒名:──

無記名?

紛失物:指輪(金色)

指輪かぁ…女の人か?

紛失場所:校庭のどこか。

それじゃわかんねーよ。

わかんねーよ…いや、わかりませんよ?わかりませんけど…
「…まさか…」
秋山さんはにやりと口許を歪めた。
「捜せ」
僕は意識が再び遠退くのを感じた。





僕はもう何度目になるのか(数えることすら馬鹿らしく思えるが)、深々とため息をついた。
捜索開始から2時間以上が経過していたが、竹箒で集めたゴミの中にそれらしき姿はない。ちぎれかけの輪ゴム、錆びたヘアピン、ボールペンのキャップ、プラスチックの棒(用途不明)、etc…。
「見つかるわけねぇよ…」
僕が独りごちると、玄関から出て来た3年生の女子生徒が怪訝な顔で僕を振り返ったが、すぐに視線を戻して校門を抜けて行った。
私立七鷹(しちよう)第一高校は、全部で5つの建物で構成されている。そのうちの一つが3階建ての体育館で、他は全て1〜4号棟と言う名で総称されるが、何と言うことはない。1〜3号棟は数字相応の学年の教室、4号棟は部活、主に文化系のそれらの部室の集合体である(余談ではあるが、4号棟だけは土足可)。なので、1〜3号棟は○学年棟、4号棟は部活棟と俗称される。先程の女子生徒は3号棟から出て来たのですぐに断定できたのだ。尤も、各学年で衿のバッチの色が違うので判別は難しくはないのだが。ちなみに、現在は1年生が緑、2年生が青、3年生が赤。
閑話休題。

『そう言えば、美化担当の潮崎が、そろそろ校庭の清掃の必要があると言っていたな』

唇をにやりと歪めて言った第19代七鷹第一高校生徒会会長、秋山が次の瞬間に僕に差し出したのはこの立派な竹箒だった。こんなものは校庭のど真ん中の僕などより境内で佇む朱色の袴の巫女さんにこそ相応しい。僕も大好きだ。どうでもいいけど。
僕は置いてあったちりとりに多様なゴミと呼ばれる存在達を掃き入れ、青い半透明のゴミ袋に流し込んだ。そんなに量はたまっていない。
土台無理な話だ。サッカーが2ゲームとその隣でアップさえ出来るような無駄な広さの校庭から小さな指輪を捜し出すなど。もしかしたら見つけたどこぞの心ない生徒が拾って持ち帰って質入れまで済ませているかもしれない。しかしもちろん、100円玉を見つけてテンションを上げた僕が言えることではない。
総合管理補佐、と言えばたしかに聞こえはいい。『総合』とか『管理』という言葉の語感の良さはなかなかのものだ。ただ、その役職名を解りやすく区切るならば『総合管理』と『補佐』に分けられる。つまりは、『総合管理』を『補佐』するのだ。
我が校の生徒会は少々変わったスタイルを取っている。一般的な生徒会は会長、副会長、会計、書記といった役職で構成されていると思うし、僕の中学までもそうだった。けれど、この学校は少し違う。学内選挙で選ばれるのは会長の他には風紀、美化、財務の3つ。ほぼ例外なくその4つのポストは3年生で構成され『幹部』と呼ばれるのだが、その各ポストの下に全在校生から募集した有志で2年生が2〜3人補佐で付く(選挙はないが重複の場合抽選)。それが○○補佐というように呼ばれる。これが幹部補佐、という役職である。
では、総合管理補佐とは?といった疑問にかられる。お気づきの方もいるだろうが、つまりは全ての補佐である。ある時はトイレでタバコを吸っていた生徒を検挙し、ある時は校内美化のポスターを全ての棟の掲示板に貼りまくる。有り体に言えば雑用なのである。
どうして僕がこのようなそんな役回りを引き受けているかというと…また今度にしよう。
それどころではないようだ。


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