エンゲイジ・リングを君に-14
「でも、指輪返しに行ったのはあんたでしょ?」
「う……」
そうだ、先に距離を置こうとしたのはゆきなの方。
婚約が解消されたということは、どのみち別れなければならないということ。だったら自分から別れを告げた方が早くふっきれるはず。そう思っての行動だった。
「でもふっきれてない、でしょ?」
百合子の言葉に胸がズキリと痛む。
忘れるはずだった。
勝手に決められた婚約。ムカつく婚約者。解消されてせいせいした。
そう思い込もうと。
だけど、忘れられない。ふっきれない。
「日田はさ、あんたを縛りたくなかったんだよ、きっと」
「縛る?」
ゆきなの声は涙で滲んでいる。
「そ。あんたに次の恋に進んでほしかったんじゃないの?青春は一回こっきりだかんねぇ」
最後の方はふざけるような口調で言った百合子だったが、顔は真面目だった。
ゆきなの中で、言葉が回る。
次の恋?伊藤くんと?
そんなの……。
「そんなの、やだぁ……」
「ゆきな?」
突然涙が堰を切ったように溢れだした。
「っぐ……真之がいいのぉ……」
青春なんかいらない。
他の誰かじゃなくて。
真之がいい。
意地を張って指輪を返したことを、こんなに後悔したことはなかった。
同時刻、真之は学校近くのコーヒーショップにいた。
ほとんど手付かずで冷めていくコーヒーのカップを時々揺らしては溜め息をつく。
テーブルの上には開いたままの携帯電話が置かれて、数分置きに手に取るものの、電話はかけられずにいた。
「ハァ……」
何度目か分からない溜め息がこぼれた時だった。
「先生……」
やってきたのは待ち合わせの相手。
「おう……」
覇気のない声で言うと、千晴はニコリと笑った。