『奇病』-1
「……なぁ、聞いたか?……あの奇病の事」
友達のT君が授業中、そんな事を聞いてきた。
奇病……? なんの話だろう。
「突然何言いだすかと思えば……なんだよ、その奇病ってのは?」
「分からないのか? 今、大ニュースだぞ?……もしかしてお前ん家、テレビない?」
……なんだ、その奇病とやらは、そんなに有名なのか? っつーかテレビ無い家って今あるのかな?
……あったとしたら、どんだけ貧乏なんだろうな。
「……いや、テレビはあるけど、俺ニュースとか見ねぇんだ」
T君は深くため息をついて「……だからお前は、いつだって流行に遅れるんだよ」と言った。
「余計なお世話だ!!……で、なんだよ? その奇病ってのは」
「……分からない」
ナンダコイツ? コレ、殴ッテイイ場面ダヨナ?
…………おっと危ない、マジギレするところだった。
俺の理性があと少し低かったら、殴っていた事だろう。
「……いや、知らねぇんかい!!」
でもストレス発散のために、ツッコミに見せ掛けてやや強めに殴っておいた。
「いや、それがさ……俺もあまりよく知らないんだよ」
自分も知らねぇくせに俺を罵倒しやがったのか、コイツは。
「……よく知らないって事は、少しは知ってるんだろ? 知ってる事を聞かせてくれない?」
「……いいけど。……え〜と、まず、その奇病に感染した『本人は気付かない』。そして『とある事をすると死んでしまう』……らしい」
……なるほど、つまり、もし感染しても、その『とある行動』ってのをとらなきゃいいわけだな。うん、うん。……………って、おいっ!!
「いや、『とある行動』って何だよ!? 重要だろ、そこは!!」
「わはは、それが分からないから俺も困ってるんだよ」
うわっ、開き直りやがった!!
マジ殴っていいか? コイツ!?
「……余計な事吹き込みやがって!!……うわぁ、気になる!!あ〜、くそ!!……よし、休み時間になったら、皆に聞いてみよう」
「う〜ん、そうだな。ああ、早く休み時間にならないかな……」
……休み時間まであと何時だ?……ゲッ、あと20分近くありやがる!!
「なんて事だ、休み時間はまだまだ先だ」
「……だいたい、あと20分か、居眠りでもしてれば?」
「馬鹿野郎!!気になって眠れねぇんだよ、馬鹿野郎!!」
「……うわっ、2回も言うことねぇじゃん」
………くそ、マブタを閉じてみるが、眠れねぇ…。
羊が1匹……2匹……駄目だ、眠れねぇ!!
う〜ん、こうなったらT君と何か話でもするか。眠れねぇし。
……俺はマブタをあけた。
「………うわっ、寝てるし」
……T君の方を見ると、T君はすでに机に突っ伏していた。
俺を眠れなくさせたうえに、自分はぐっすり睡眠とは、ゆるせん。
「……仕方ない、授業受けよう」
ちなみに『……いや、普通に授業受けろよ!!』というツッコミはご遠慮願いたい。
「……う〜ん、つまらねぇな」
まるでお経にしか聞こえない。
「……なんだか、今なら眠れそうだ」
先生の話がこもりうたに聞こえてきたからな。
『キーンコーンカーンコーン』
「だー!!よく寝た!!」
俺はチャイムの音で、目が覚めた。
さて、皆に聞いてみるとするか。
ふと、T君の方を見てみる。
「……ったく、まだ寝てんのかよ」
……T君の肩を叩いた俺は、その肩が異様に冷たい事に気付いた。
……T君はもうすでに、かえらぬ人となっていた。