十七の夏〜セミシグレ-1
「ごめんね」
俺がそう告げると、彼女は目を赤くして走っていった。
相手は一つ下の学校の後輩。
メールや電話で告白されるよりは遥かに嬉しいが、やはり付き合うまでには考えられなかった。
はぁと一息。少し汗ばんだシャツをばたつかせる。
暑い。とにかく暑い。あいつも暑がってるのかな。けど暑いの好きだったからな、大丈夫だな……。
そんなことを考えてふと気付いた。
あれから一年以上経ったのか。
必ず。必ず迎えに行くから――。
「真理…」
あの時言った自分の言葉を思い出す。
お互いに離れた直後は悲劇の主役を演じていたが、今は大分落ち着いた。今はメールや電話をしても、暗い話題は出てこない。
今でも、週に一、二回程度にメールを続けている。
その日の夜、俺は真理にメールをした。なんてことはない、元気でいるかというメール。
『元気だよ!今日はね………』
メールの内容を見て安堵する。昔は、辛い苦しいが何度も文章の中に入っていたが、真理の実家の自然が彼女を癒してくれたのだろう。
何通かやりとりをした後、バイトが入っていたので俺はメールを切った。
家の玄関を開けると、紫色の空に星が輝いている。空を見上げながら、懐かしい音色が俺の耳を抜けていくのに気付いた。
ミンミン……ミンミンミン…ミンミン……。
「蝉時雨か……」
童心に帰った気になりながら、俺は原付にキーを刺しこんでバイトに向かった。
気が付くと、目の前にはただただ闇だけがあった。
誰かの声が聞こえる。
声の聞こえる場所へ向かう。少し闇の中を歩くと、一ヶ所だけ明かりがともっていた。
誰かが、立っている。