やっぱすっきゃねん！-3
佳代は、
[直也は？やっぱ野球]
[当然！兄貴もいるしな…って佳代、オマエもやるのか…野球？]
佳代は直也にニッと歯を見せる。
[やるに決まってんじゃん！]
[やるってオマエ…男子ばっかりだぞ]
佳代の後ろにいた山下達也が驚きの声を上げる。佳代の周りの男子は揃って"女子の部活にしろよ"と野球部入りを止めさせる。
佳代はプーッと頬を膨らませて、
[アンタ達も母さんみたいに言うのね。でも、アタシはやるよ！中学どころか高校でもね。そして日本代表になって世界大会に出るんだ！]
佳代は目を輝かせながら妄想とも思える決意を語る。が、周りの男子達は呆れた顔をしながら自分の席に散っていった……
放課後、佳代は男子達と一緒に野球部が練習しているグランドへと向かった。たくさんの選手達の威勢の良い掛け声が響く。佳代はその光景を見ただけでワクワクしていた。対して男子達はやや緊張していた。
ユニフォーム姿でイスに座って選手達の練習を眺めているのが監督だ。時折、選手達に大きな声を飛ばしている。
おそるおそる近づく男子達に対して佳代はツカツカと歩いて行くと、
[監督、野球部に入部させて下さい！]
と言って頭を下げる。後ろの男子達も佳代を真似て頭を下げた。
監督の榊は不思議な者を見るような目で佳代達を見た。"入部って、後ろの男子は分かるがこの娘が…"榊は薄色のサングラスを外しと、
[君はマネージャー希望なのか？]
監督の言葉に"カチン"ときた佳代。しかし、ここは心象良くしようと抑えて、
[いえ、選手としてお願いします]
[でもなぁ、今までマネージャー以外で入部させた事ないんだよ]
佳代はひきつる笑顔で、
[だったらアタシが初めてですね]
[しかしなぁ、男子でも一年目で半分くらい辞めていくんだぞ。相当キツいぞ]
監督はしつこく諦めるよう説得するが、佳代はガンとして受け入れない。
おろおろしながら二人の掛け合いを眺めるだけの男子達。
佳代はついに自分の熱意を語り出した。
[監督。茨城ゴールデン・ゴールズの片岡美咲って知ってますか？熊本工業や大牟田高校の公式野球部に女子選手が居るのを知ってますか？彼女達は野球が好きだから男子の中に一人混じっても、やっています。アタシも同じです、野球が大好きなんです！]
監督はうつ向いて腕組みをしている。何やら思案しているようだ。そして、
[じゃあ明日から一週間テストをやる。明日、7時にグランドに来い。ジャージでな]
[ハイ！]
佳代は大きな声で返事する。監督をジッと見つめる。劇画ならお互いの間を稲妻が走っているシーンだ。