秘密〜菖の恋〜-9
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先生と初めて会ったときから二ヶ月たち、最近は楸先生と水野先生がお付き合いしているという噂がある。
「そういえば、菖さんの婚約者の哉嗣さん、司法試験通られたとか。まだ二十歳だというのに凄いですわねぇ」
「・・・えぇ」
哉嗣の事は、やっぱりあんまり触れて欲しくない。
「あっ」
「えっ!?」
私が急に叫んでしまい、美狭子さんが驚いたように私を見た。
「いかがなさったの?」
「忘れ物を。・・・ごめんなさい。先に帰ってらして」
「あら。わたくしも手伝いましょうか?」
心配そうに、私を覗き込んでいる。
「いいえ。大丈夫ですわ。ありがとう。ご免なさいね。ごきげんよう」
「そう?・・ごきげんよう」
心の中で、深く頭を下げ、後ろ姿を見送る。
ーない。どうして?
教室中を探し回ってもない。何故?教室の他にどこか行ったかしら。
「あ、音楽室」
忘れていた。期末が近くて最近は部活がなかったから忘れていた。
「大変っ」
音楽室はもう閉まっているかも知れない。
ぱたぱたぱたと廊下を走ってしまった。
静かに!とシスターに注意される。
かちゃっ
「開いてたっ」
喜んでいると、耳にピアノの音が聞こえてきた。
「・・・トロイメライ・・」
驚いてピアノの方を見ると、楸先生が弾いていた。
〜♪
ピアノの澄んだ音が響く。
「閉めて」
気付いてないと思っていたが、突然言われ慌てて閉める。
「先生・・」
「これ、君の楽譜?」
「えっ?」
慌ててピアノに近付き楽譜を見る。
・・・私のだ。
「はい。すいません」
「はははっ!!」
先生はピアノを止めて笑いだした。
「先生?」
「ははっ、は、ごめん。っは!!」
笑いが止まらない。
「ごめっ、っはは。・・・妃は、良く忘れたり、落としたりするな。この間は何もないところで転ぶし。見てて飽きない」
にこにこと笑いながら話す。
「・・・どうも」
そこまで見ていたのか・・。複雑だ。
「はい。楽譜」
ぽん、と頭に置かれる。
「ありがとうございます」
「ー・・・折角だから、聞かせてくれる?」
「えっ!?」
「はい、どーぞ」
と椅子を譲られた。
「下手ですよ?」
「いいよ。気にしないから」
ふっと笑う。私が一番好きな笑顔。
ターン♪
曲が始まる。先生の視線が、熱くて間違えてしまいそう。
〜〜♪
「もう少しリラックスして」
先生が譜面をめくる。少しづつ落ち着いてきた。
〜♪・・・
曲が終わった。少し息が上がってしまい、指が痛い。
パチパチパチ
「上手いよ。最後辺りは、初見だろう?」
「え・・・、はい」
何で分かったのだろう。
不思議そうに見る私の視線を、笑顔で返す。
「途中、ちょっと早くなってしまうのが直れば、良いんじゃないかな」
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