秘密〜菖の恋〜-8
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「ゃだよぉ・・・」
ワガママだと分かっている。哉嗣は、何だかんだ言いながらも私の気持ちを待っていてくれてる。それは、分かっている。けれど、心が動かない。気持ちに答えようとするほど、思い知らされる。先生への想いを・・・。
「そんなに俺は、嫌?泣くほど嫌い?」
振り向くと、哉嗣が複雑そうに私を見ていた。
「・・・・」
何も言わず、私は顔を背けた。
ふうっと哉嗣が溜め息をついたのが分かる。
「話すのも、嫌?」
「ー・・・私は、好きな人がいるわ」
じっと異母兄を見据える。
「ーそれが?」
動じない哉嗣の態度に軽く目を見張る。
「親が決めたんだから、最初っから菖の気持ちは覚悟の上だ。お見合いもなければ、恋愛感情もない。菖に好きな奴が居るのも覚悟してた。菖は違うの?俺に他に恋人が居るかもしれないと考えなかった?」
「ー・・・。居るの?他に・・・・」
いや、と言い、笑いながらその場に座る。
「居ないけどさ。・・菖には、居るんだな」
すっと右手を握られた。
「にい・・・」
にいさま、と言おうとしたところを手に遮られる。
「哉嗣。俺の名前は、哉嗣。兄と呼ばずに名前で」
ふっと笑い、私を胸に抱き締めた。
「ちょっ、異母兄さまっ、いゃっ・・」
逃れようとすると、
「少しの間だけ。このままで、話聞いて」
優しい声で言われた。ー異母兄さま?
「確かに、菖に好きな奴が居るだろうことは覚悟していた。けど、諦めるとは言ってない。どうせ結婚するなら好きあって結婚したい。・・・菖、俺はお前を振り向かせる。絶対。だから、覚悟しといて」
言うだけ言うと、すっきりしたように部屋を出ていった。
「・・っ」
胸がどきどきする。けれど、先生の時とは違う。
先生の時は胸が苦しくなるほどに切なかった。
先生か、哉嗣か。 好きなのは、先生。将来結婚するのは、哉嗣。どちらも選べない。哉嗣にすれば楽になるだろうが、先生への恋心は消えない。
「どうしよう・・・」
「妃」
廊下を歩いている所を、呼び止められた。
「楸先生」
何だろう?
「はい」
「え??」
「ロザリオ、さっき落としただろ?」
「えっ」
ばっと首を触る。
無い。ロザリオを下げていたチェーンがない。
「ごめんなさいっ。ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げ、ロザリオを受け取った。
「いいえ」
にこっと笑い、去っていった。
「菖さん」
後ろで、美狭子さんが微笑んでいた。
「なかなかに仲がよろしいではありませんの?」
つんつんとほっぺたをつついてくる。
「そうでもありませんわ」
「そう?まぁ、楸先生は水野先生とお付き合いなさっているみたいですしね」
「そうね・・・」
少し曇った顔で返事する。
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