秘密〜菖の恋〜-5
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「いよいよですわねっ」
隣で美狭子さんが興奮している。
ーあぁ、だから髪を下ろしていたのか。
彼女は、髪を結んでいるときよりも、おろしていた方が可愛い。
ーこれは、先生をねらっているわね。
妙に納得できた。
かちゃっ
扉が開いた。皆の視線がそこに注目する。
どくっ。胸が高鳴った。
先生の服装は、昨日の大学生か社会人か分からない服装じゃなく、黒のスーツに濃い藍色のネクタイ。きちんと先生に見える。
ほうっ、と数人溜め息を着く。どうやら、新しい先生は合格みたいだ。
「初めまして」
先生の澄んだ低めの声が音楽室に響く。
「佐々木先生の代わりに来ました、楸 和馬です。少しの間だけど、よろしく」
言い、生徒を見渡した。
「じゃあ、最初だから皆の名前も教えて貰おう」
名簿を見ながら、出席番号順に名前を言っていく。
「一番、秋坂 美奈子。二番、綾瀬 奈々」
次々名前を言われていく。私の番も近くなる。どきどきしてきた・・・。
「八番、妃・・・菖」
「はい」
一瞬止まったような気がしたけど、特に変わった様子がないから、気のせいか。少し、残念。
「じゃあ、質問があるなら何でもしてくれ」
ふっと笑い、皆を見る。
「はい。よろしいでしょうか?」
美狭子さんが手を挙げた。
「どうぞ?桐榮サン?」
「年齢は、いくつでしょうか」
「二十五。オジサンって言うなよ?」
ふふっと何人かが笑う。
「では、恋人は?」
どきっとした。それは、私も知りたい。
「いないよ。・・・・今はね」
微妙な答えだ。でも、今は居ないなら良い。それだけで、嬉しくなった。
「まぁ、では、私(ワタクシ)が立候補致しましょうか?」
美狭子さんが笑いながら言う。
まぁ、と後ろの穂坂さんが笑い、
「桐榮さんでは無理ですわ」
とつっこむ。
残念。と笑いながら、美狭子さんは座った。
「他には?」
「はい。わたくしが」
美奈子さんが手を挙げる。
「先生の好きな曲は、何ですの?」
「俺の?・・・・うーん。敢えて言うなら、『ユモレスク』だな。秋坂は?」
「わたくし、ですか?そうですわねー・・、『アウ゛ェ・マリア』など」
そう言い、椅子に座った。
「妃!!」
授業が終わった後、先生に呼び止められた。
「はい?」
どきどきしつつも、少し期待してしまう。
「今日、当番だろ?ホワイトボードよろしく」
にかっと笑い、ボードをこんこんと叩いた。子供みたいな人だとやっぱり思う。
「すいません。忘れていました」
ぺこっと頭を下げ、美狭子さんを見た。
「先に行っておくわね。荷物一緒に持って行きましょうか?」
「そんな・・・」
「いいの、いいの」
そう言うと、私の荷物を持って教室へ戻っていった。
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